第弐拾参集:兄上
「ご、五千人分だと⁉」
そして猿神族の寺院へ入り、鶴渓を見つけるな否やすぐに
「その五千というのも、被害が
「そういうことか。他にも墓荒らしにあっている人間の街や村があるとしたら、その数は五千どころじゃすまないってことだな」
「そうです」
「こりゃ、どうすりゃいいんだ……」
その雨雲の隙間から輝く月明かりに照らされ、二人の青年が現れた。
「おお……」
「
「あ、そ、そうだった。お久しぶりでございます、孫師匠」
寺院の欄干に立っていたのは、
「おお!
「……え?」
(い、今、
目が合った。
青光りするほどの黒い絹のような髪に、どこか幼さが残る顔立ち。
たおやかな体躯は服が違えば
紙芝居でも見ているようだった。
やけにゆっくりと感じる時間。
気付いたら、
「
「え、あ、あの」
「義兄上、
「あ、そ、そうだな。さすが
「ごきげんよう、
「わ、あ……。えっと、お名前を知ってくださっていて嬉しいです。改めまして、
「おおお! 我が愛しき末弟が『あにうえ』と言ったぞ!」
「……義兄上、ここは猿神族の寺院です。騒ぎ過ぎは良くないですよ」
「あ、す、すまん……」
二人のやり取りを見ていると、どうやら
ただ、やはり
「なんだなんだ、
「そうなのです、師匠。末弟は生まれてすぐ〈取り替え子〉として人間界へ行ってしまったので」
「なるほどなぁ。龍神族は伝統を続けているんだもんな」
「そうです。我が一族も、そろそろ他種族との精神的、肉体的交わりに関して、もう少し寛容になるといいのですが」
「それは
「師匠、ありがたきお言葉です」
「そうそう、
「あ、は、はい!
「おお……。
「ああ、
「そういうことなのですね」
「義兄上の龍神の姿は圧巻だぞ。今度
「わあ! それは楽しみです! ……あ、でも……」
「……そちらの皇帝は頑固者なのだな。
「あ、義兄上……」
そんな義弟の態度に頬を膨らませながら、
「いざとなれば
「うまくいきますかねぇ」
「む!
「はぁ……。いつも人任せですね」
「だって頼りになるのだから仕方がないではないか」
「わかりましたよ。その時が来たら頑張らせていただきます」
「で、お前さんたちはどうしてここへ?」
鶴渓はいつのまにか用意した茶器と茶菓子を持ちながら小上がりに腰かけた。
「茶でも飲みながら話してくれよ。深夜に食べる甘味の背徳感はたまらんよなぁ」
「師匠は本当に甘いものがお好きですね。さぁ、
「え、あ、はい」
「師匠、わたしはどうしても
「おうおう」
「鶴渓殿、
そう言って
「な、なぜそれを義兄上も?」
「わたしは別の村でこれを見つけ、銀鉤教のやつらから奪ってきたのだ。……奪って来たというか、まぁ、始末してきたと言った方が正しいな」
「ということは……」
「ああ。すでに蔓延し始めている。黒幕について何か心当たりはないか?」
心当たりならいる。
しかし、ここで確証もないまま名をだしてもいいものなのだろうか。
もし違っていたら、
「
「わたしは祥国宰相の
「
「わたしにもわからないのです。どういうわけか、昔から太皇后の次子である
「ううん……」
「その景耀とかいう親王は、本当に先帝と太皇后の間に生まれた子供なのか?」
場が静まり返った。
鶴渓は「まずいことを聞いている気がする……」というような顔をしながら遠くを見つめだした。
「ど、どういうことでしょう、兄上」
「邪推だが……。もし景耀が太皇后と蘭玉の子ならば、蘭玉がそこまでして皇位の
「え……、えええ! で、でも、二人は実の
「本当に、血は繋がっているのか?」
蘭玉が養子だという話は聞いたことはないが、太皇后と母親が違うという話ならば噂程度に聞いたことはある。
「まずは蘭玉の生い立ちを調べてみると良いのではないか?」
「義兄上の頭脳には毎回驚かされます。普段からそのようにしてくださればいいのに」
「
「またそうやって」
「
「はいはい」
ただ、なんとなく。
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