第弐拾集:誘拐
雨が降りしきる、依頼もなく暇な日。
「お師匠様から送られてくる本は本当に難しいなぁ……」
一応は修行を終えて金苑に戻ってきた
定期的に勉学に励むようにと、書物が送られてくるのである。
「まずはこの文字の意味を調べないと」
書籍は中原の言葉で書かれているものだけではなく、はるか西方にある国々のものが選ばれていることもある。
「はぁ……」
机に頬をつけ、大きくため息をついたその時、口をふさがれ、腕を拘束された。
「んん⁉」
振りほどけない。
道中、ずっと頭に袋をかぶせられていたため、相手が誰なのかも、どこへ連れていかれているのかもわからなかった。
一時間ほど走っていただろうか。
いや、走っていたという速さではない。
「おろせ」
低く、少し酒焼けしたような声。
「ほどいてやれ」
また同じ声。
「……え」
きらびやかな装飾が美しい極彩色の建物。
金苑にある一番豪華な道教の寺院といい勝負だと思った。
「あ、あの……、あっ」
つい、口から驚きの声が出てしまった。
何故なら、目の前に立っていたのは、鮮やかな山吹色の
「お前さん、俺たちを見るのは初めてなんだな」
「え、えっと……」
「あはは。
「え、え⁉
「ああ、そうだ。というか、お前さんたち龍神族も他の種族からすれば伝説の存在だろう? 面白い反応するなぁ」
「あ、あはは……」
何が何だかわからなかったが、どうやら彼らは龍神族と同じで限りなく珍しい種族であり、さらには
「あの、それで……、何の御用でしょうか」
「おお、話しが早いな。
「あ、そ、そうなんですね」
連れて来た、というよりも、誘拐してきた、の方が正しい気もするが、それに関しては口をつぐむことにした。
何よりも、
「問題というのは何でしょうか」
「それじゃ、茶でも飲みながら聞いてもらおうか」
猿神族の男性は若い衆に「一番甘い茶を持ってきてくれ」と言い、
「まずは自己紹介だな。俺の名前は
「可愛いお話ですね」
「笑っちまうよな。でも、結構気に入ってるんだぜ、名前」
「素敵だと思います。わたしも自己紹介を……」
「知ってるぜ。
「へへへ。それは嬉しいです」
「まぁ、複雑な家系図だとは聞いているが、仲が良さそうで安心したよ」
「ありがとうございます」
二人はちょうど若衆が運んできてくれた甘いお茶を受け取り、ホッと一息ついた。
「ふぅ。それで、相談したい問題っていうのがな……」
「
「え、それって、
「やっぱりそう思うか? 俺もそう睨んでる。
「それなら、その、倒してしまえばいいのではないでしょうか」
「ああ……。そうしたいのはやまやまなんだが……。猿神族はな、孫悟空様と
「あ、なるほど……」
「
「それで、わたしに頼んでくださっているのですね」
「そうなんだ。最初は
そういえば、
やはり、実母である淑妃の死の真相や、先帝の非業の最期について調べているのだろうか。
「俺らはあの変な団体が二度とこないように追っ払えればそれでいい。頼まれてくれるか?」
「ええ、もちろんです。わたしがなんとかしてみます」
「おおお! ありがとう!」
鶴渓は
晴れやかな気持ちの二人とは裏腹に、雨脚は強くなり、さらに曇天を極めていた。
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