第陸集:風
「ううん。なぜあんなにも恐れるのか……」
先日、自分の出生の秘密や、先帝の崩御の真相などを知った
そこで、特に意識もせず「龍王谷に行ってみたいなぁ」と口にしたところ、ひどく取り乱した
居心地どうのこうのと言う前に、大切な人がこちらには多く生きている。
離れる理由など、全く思い浮かばないのが正直なところ。
「もう少しわたしのことを信じてくれてもいいんじゃないのかなぁ」
皇帝の許可なしに国を出て龍王谷のような異界に行くことは出来ない。
「突然のことだったし。時間が必要なのかも」
兄の気持ちもわからないわけではない。
「……あ」
皇宮から出たすぐのところで、珍しい人物が乗った馬車と出くわした。
あとで「お前、挨拶しなかったな?」と言われても面倒なので。
「徳王殿下、ごきげんよう」
すると、シャッという音と共に開けられた格子窓から、
「……
「挨拶を、と思いまして」
「必要ない。邪魔だ」
「……あれが本当に
太皇后はあまり妊娠しやすい体質ではなかったようで、嫡出子は二人だけ。
昔から
家族でありながらも、皇位が絡むと途端に複雑化してしまう。
「皇位なんて欲しいとも思わないけどなぁ」
万が一皇帝になってしまえば、自由に遊説することも出来なくなる。
「……そういえば、あの道観ってどうなったのかな」
「
すると、『火』『水』『風』の珠が輝き、次の瞬間には
「これなら、飛んでも誰にも見られないよね」
道観までは歩いて行くと山を登らなければならないのでそれなりに時間がかかるが、飛べばすぐにつく。
それに、上空から様子をうかがうことも可能だ。
「……あ」
いや、道観だったものが。
「廃墟になってる……」
すべての箱類が開けられ、中身が出ていた。
おそらく、野に運び焼いたのだろう。
道士や
「……何かを探しに来ていたのかな?」
散らばっているものの中で一番多いのが巻物類。
ただ、何が持ち去られたのかは不明だ。
「……ん? んん⁉」
目を凝らして見ていると、ひとりの青年が目に入った。
赤い髪に、黒い
「……やはり来たか」
「あ、あの」
「大丈夫だったか? もう身体は平気か?」
「あ、えっと、はい……」
「もう知っているのだろう? わたしは
「わあ! やっぱり! よかった……。またお会いしたいと思っていたんです。わたしは
「ふふ。好奇心が旺盛なんだな。聞きたいことが山ほどあるといった顔をしている」
「え、わかりますか」
「
彼の
「そ、そうなんですね……」
「本当なら、
「それは嬉しいです」
「わたしも
そう言うと、
「か、かっこいい!」
燃えるような赤い髪に、緑がかった美しい目。
低めの声は
しっかりと鍛え上げられた体躯はひきしまっており、ゆったりとした
「……わたしの義兄たちはすごいなぁ」
龍神族がみんなそうなのかは知らないが、とにかく、見た目で言えば、あまり強そうには見えない。
「お肉料理増やしてもらってるのになぁ……」
少し汗ばむほどの陽気の中、風が身体を通り抜けるのはとても気持ちがいい。
少しゆっくり飛んで帰ることにした。
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