第参集:最初の依頼
「
「ご、ごめんなさい!
侍従長として侍従と侍女を束ねている敏腕侍女の
「まったく! 親王に
「は、はあい……」
先日、太常寺が選んだ最も縁起のいい日に、礼部尚書直々の監修のもと、盛大な儀式が行われ、
貴太妃は涙を流しながらその様子を目に焼き付けるように見つめ、
(まさかあんなに豪華な式になるとは思わなかったなぁ……)
その場にいた多くの人々がその美しい光景に感嘆する中で、二人、恐ろしいまでの怨念をにじませた表情を浮かべている人物がいた。
そのせいだろう。太皇后の他の子供たちは体調不良を理由に一人も参加しなかった。
(あの二人も嫌なら参加しなきゃよかったのに)
「殿下! 洗濯物がまだ出ていませんよ!」
「あ、は、はい!」
そんなすこしチクチクとする心に喝をくれる李の声。
ありがたいと同時に、
李の採用は、兄であり祥国皇帝の
あの二人は、わざと厳しい侍従長を選んだのだ。
(うう、覚えてろよお!)
「霓王殿下はいらっしゃいますか?」
その時、門の方で
走るわけにはいかない。侍従が対応している間に、ゆっくりと門の方へと向かっていった。
侍従の案内の方が早かったらしい。
赤い甲冑を身に着けた男性が歩いてきた。
「ああ、殿下。陛下からお手紙ですよ」
「おお、
切れ長な目と涼やかな口元がかっこいいと、女性からとても人気があるが、当人はまったく気にしていないらしい。
「早速、
「そうみたいです」
三日前、聖旨により、正式に『天狼隊』の活動が認められた。
時間がかかったのは、太皇后と宰相が邪魔をしてきたからである。
それでも、
今回はその天狼隊の初仕事というわけだ。
「大統領からはいつでも力をお貸ししろと言われているので、必要な時はお声かけくださいね」
「それは助かります。睿殿は
「それは光栄です」
「今回は一人でこなせそうなので、睿殿はお仕事にお戻りいただいて大丈夫です」
「わかりました。くれぐれもお気を付けください」
睿は胸の前で右手拳に左手のひらを添え、頭を下げた。
「では、失礼いたします」
颯爽と外套を翻して帰って行く様は、つい魅入ってしまうほどかっこいい。
「わたしも甲冑とか着ればああなれるのかな……。いや、でも動きづらいしいいや」
引き戸を開け、中へ入ると、豊かな生薬の香りが外まで広がっていった。
「ありゃ、そういえば、全部出しっぱなしだ」
部屋の壁を覆うように置かれた百味箪笥にはそれぞれ分類わけされた薬草や種子、干し果実、粉末化された生薬などが入っている。
薬術は
さらには、幼少期のころ、太皇后による毒殺の危険にさらされていたこともあり、師匠から「お前は武術よりも先に薬術を覚えるべきなんじゃないか?」と言われ、教えを乞い習い始めたのがきっかけだ。
床には本草学や医術、鍼灸、薬膳の本が散らばっている。
昨夜、侍従や侍女たちのための常備薬を作っており、完成した安堵からそのまま寝落ちてしまったのだ。
「李さんに見られたら怒られる……」
幸い、薬草が放つ独特な香りについては誰も文句を言ってこないので、そこだけは安心している。
「ふぅ……。なんとか綺麗に見える部屋になったぞ」
とりあえず、足の踏み場は確保できた。
「兄上は字が綺麗だなぁ。っと、そういうことじゃなくて、えっと何々?」
内容は、『
「
まさに文武両道。精鋭中の精鋭。
「理由は……、何度読んでも書いてないや。ま、いいか。まずは全部の
部屋から屋根伝いに外出すると李に怒られるので、おとなしく廊下を歩き、正面の門から出て行った。
春の陽気に温められた優しい風が吹いている。
(お師匠様には直観を大事にしろって言われたけど、それを重んじるなら、少し嫌な予感がする……)
北東の方角に、厚い雲がかかり始めていた。
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