果実

とーとろじー

果実

 日が昇り、沈む。そしてまた日が昇り、沈む。何度も何度も。その繰り返しの中で、建物は劣化していく。この世界に、少年が一人いた。少年以外に植物も動物も、あらゆる生物が存在しないこの無機質な世界で、崩れかけた建物の中を少年はさまよっていた。


 ある日、少年は一本の木を見つけた。その木には、たくさんの果実が生っていた。少年はその果実を食べようと、一つもぎ取った。ふと、そのもぎ取った果実を少年は見つめた。


 この木は健気に生きようとしている。太陽に向かって枝を伸ばし、青々とした葉を茂らせている。そして種を残して、生命を繋いでいこうとしている。自分はどうだろうか。自分は子孫を残すことなく、一人孤独に死んでいくのだ。この命は続いていかない。自分が死んだらそこで途絶えるのだ。自分はあとどれくらい生きるのだろう。なんにせよ、いつから始まって、いつ終わるのかわからないこの長い時間軸から見れば、ほんの短い間しか自分は存在しないのだ。この何もない世界で、何をするでもなく、ただ呼吸するだけの人生。例え、頑張って何かを成し遂げたとしても、死んでしまえば全て無くなる。むなしい。なぜ自分は生きているのだろう。この人生に意味はあるのだろうか。いや、無い。例えば細菌も生物だから命はあるが、その細菌の生涯に意味があるだろうか。人間は細菌の生命を考えることもなく消毒してしまう。そもそもどのようにして細菌が誕生したか。自然現象だ。偶然発生したのだ。人間も同じだ。人間は細菌の延長に過ぎない。人間の命も、偶然が生んだものだ。ただの現象に過ぎない。そんなただの自然現象に意味があるだろうか。雨が降ることに意味があるだろうか。いや、無い。自分の命も、この宇宙の端っこで起きた単なる自然現象に過ぎない。なぜ生命という現象に意味を見出そうとしていたのだろう。むなしいからだろうか。むなしさから目を逸らそうと、人生に意味を求めていたのかもしれない。


 少年は手に持っていた果実を捨てた。もうその木を見ることすら嫌になって、少年はそこから立ち去った。

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