またあした

 そのロボットは、明るくて、社交的だった。

 家を出て少し歩いた河川敷、大きな橋の下。そのロボットは、毎日ここを通る。雨の日は傘をさすし、寒い日はコートを着込むし、風の強い日は、その長い髪をばさばさとハデにはためかせている。まるで人間みたいだ。実際近寄ってみても、じっと観察してみても、それは人間と全く変わらない。肌や紙の質感、細かな表情、仕草まで、人間そのものだ。女子高生を模したと思われるそのロボットは、毎日決まったルートを通って、おそらく「さんぽ」をしている。

 私はそんなロボットと、よく話をする。声帯機構とかいうやつが備わっているのか、声や喋り方まで、人間のものと変わらない。放課後や休日、特にすることもなくヒマな私は、ロボットを待ち伏せて、捕まえて、話し相手になってもらっている。

「や」

「こんにちは!」

 元気のいいあいさつを、ここ最近は毎日のように聞いている。冬休みに入って、よりいっそうヒマなのだ。相手が無機物だから、人間の友達だったら二日やそこらで飽きられるような話も、気にせず話すことができる。

「私ヒマなんだ。ちょっとお話しない?」

「いいよ! あなた、名前は?」

「ミカ」

 自分の名前を告げないと、ロボットはしつこくしつこく食い下がってくる。初めのうちはその仕組みがよくわからなかったけれど、最近ようやく理解した。

「ミカ! わたしはナノ。よろしくね!」

 このロボット、ナノは、会うたびに記憶がリセットされている。その結論に至ってからは、名前も知らない相手の話し相手をするのも嫌だろうなと、すぐに名前を教えるようにしている。

 ナノと話すとは言っても、ナノは自分から話を振ってくることはしないから、私が何か話題を出して、ナノがそれに答えて、私が関連した別の話題に移るというのを繰り返すというだけ。AIとチャットするアプリとそんなに変わらない行為だ。これを文字で行うなんておもしろくもないと思ってしまうけれど、傍から見れば、これも大して変わらないだろう。ましてや学習すらもしないのだからなおさらだ。

 それでも、私はこの〝お話〟が、そして何より、ナノが気に入っていた。人間とほとんど変わらないはずなのに、人間よりもずっと話しやすい。それが不思議で、こうして話すのが楽しいと思えていた。

 そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。ついさっきまで赤々としていた空は、いつのまにか真っ黒に染まっている。空を見上げて、そろそろ帰らなくちゃ、と言うと、ナノはそっかー、とだけこぼす。

「またね」

「じゃーねー」

 ナノに「またね」と言われたことは一度もない。記憶をリセットされているのを自分でわかっているみたいに、次会える保証はないよとでも言いたげに、かたくなに「またね」と言わない。それにすこしもやもやしたものを感じながら、私たちは別々の方角に歩いていく。

 いつか記憶が維持されるようにして、ちゃんと友達になれたらいいのにと思いながら、私は今日も、ひとりで帰路についた。

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