第21話 場所を変えて
「よしっ!じゃあいきます!」
俺はグレイブとフレイヤにそう言うと握り締めたレミエムダイトに魔力を込めていき、反対の手の先に鉱石の特徴が現れるようにイメージしていく。
今回の目標は木の枝だ。
え?なんで木の枝なんかを引き寄せようとしているのかって?
所変わって、現在俺たちは村から離れた原っぱに来ていた。
フレイヤのお爺さんが使っていた工房で俺がポルターガイスト並みに突然魔法を使って工具を飛ばしてから、既に小一時間ほど経っている。
あの後、俺が望み通りの現象を引き起こせたことに喜ぶ間も無く、グレイブとフレイヤに質問攻めにされ、再度実演したり、二人にも俺と同じようにやってもらったりと色々試していた。
それで、流石に工房の中で物を飛ばすようなことをするのは危ないとようやく気が付いた俺たちは、こうして見渡しのいい広い場所に移って来たと言う訳だ。
そして、現在。
俺は絶賛、二人の前で
20センチほどの木の枝から5メートルほど離れた俺は、そこへ向けて左手を伸ばすように掲げ、レミエムダイトから力を引き出していく。
左の手の平に魔力が集まるのを感じると、睨み付けるように捉えていた木の枝が俺の手元に目掛けて見事に飛んできた。
「ぶあっ!あっぶなっ!!!」
それを俺は格好良くキャッチする事なく、全力で体を横に逸らし回避する。
「なに避けてるのよ!それくらい取りなさいよ!」
「そうだぞー!カッコ悪いぞ、ダイスー!男らしくいけー!」
さっきからずっとこれだ。
俺が実演するたびにブーイングの嵐。
そりゃ、二人の言っていることも分かる。
引き寄せたのなら、それを避けずに取れと。
分かってる。分かってるさ。
でもね。
「できたらやってるって!本当に怖いんだって!でも、枝の先が突き刺さるように飛んで来るんだよ!?下手したら刺さるって!思ってるよりも速いんだよこれ!」
俺は言い訳という名の抗議をせずにはいられなかった。
「二人にはどう見えてるか分かんないけど、やれば分かるって!」
「あんたしか、できないから私たちが観察してるんじゃない!ほら、さっさと次やりなさいよー!」
「そーだそーだー!」
そう。
二人にはアン・セッテを使ってその鉱石の特性を引き出すことができなかったのである。
魔力を鉱石に流しながら鉱石の特性を引き出していくイメージを具体的にするようにと、俺は二人に説明し、その通りにやってもらった。しかし、鉱石は全く反応しなかった。それは言葉を変えて伝えても上手くいかなかった。
(まあ、そのお陰で俺の使ってた鉱石が魔石ではないという証明になったんだけど。なんで俺だけできるんだろう?)
鉱石の特性を引き出すには特別な刻印を施さなければならない。それを行ったのが魔石だ。魔石は魔力さえ流せば誰にでも扱える代物で、魔法に関する知識や下準備などが一切いらない。だから、二人が使えなかった時点で、そうでないことが確定したのである。
そうすると当然、なぜ俺だけが使えるのか?という疑問が残り、グレイブは初め、俺が実は魔法が使えるんじゃないかとも疑っていた。
しかしそれも、すぐに否定された。魔法には明確な知識と呪文の詠唱、又は陣の形成などが必要らしく、グレイブは俺の様子を見てその疑いも潰していった。
そうなると。
もしや俺に特別な力が?
と、思わなくもない。
だが、この感覚はそんな大層なものではない気がする。おそらく、俺はたまたまそれができたに過ぎないのだ。二人もコツを掴めば絶対にできるはずだ。
そんなことを考えながらやっていたからか、いつの間にかグレイブとフレイヤが側にやって来ていることに今更気が付いた。
「どうしたんですか?二人とも」
「どうしたって、おまえ聞こえてなかったのか?」
「なにがですか?」
「帰るのよ」
俺の問いにグレイブとフレイヤが順に答えていく。
「でも、まだ他の鉱石を試してませんよ。まだ陽も明るいですし、もう少し」
持って来ていた標本に手を伸ばそうとすると、グレイブの大きな手が俺の肩を掴んできた。
「ダメだ。今日はこれでやめとけ」
「ええ、そんな。せっかくだし、もう少しやりましょうよ。グレイブとフレイヤにもできる鉱石があるかもしれませんよ」
そうそう。もしかしたら、相性とかあるのかもしれない。魔力についてはよく分からないが、なにか伝わる力に違いがある可能性だってある。そうすれば、きっと。
グレイブの制止を無視して、標本の蓋を開け、次の鉱石を取り出そうとする。
「ダメって言われてるの分からないの!行くわよ!大人しくしなさい!」
すると、俺は右腕をフレイヤに強引に掴まれ、その場から引き剥がされてしまった。
「ちょっ!待って俺のコレクションがっ!」
「安心しな、俺が持ってってやる。だが、言うことを聞かないとコイツをスザンナに渡しちまうからな」
「そんなっ!?それはやめてっ!!」
「だったら大人しく今日は家に帰るんだな」
「だから、なんでさ。二人ともいきなりどうしたっていうのさ」
フレイヤに引き摺られながら俺は二人を交互に見て聞いた。俺の問いに答えたのはフレイヤだった。
「あんた。魔力の使いすぎなのよ。ふらふらしてるの気が付かないわけ?汗もいっぱい掻いてるし。休まないと倒れるわよ!」
「え、俺そんなに?」
まだ10回そこらしか魔法を使ってないのに。俺ってばそんなに体調悪く見えちゃってるのか?
「そんなにだ。魔力を使い慣れないとそうなるんだよ。お前らは子供だからな。身体が未熟な分、使える魔力もそんなに大きくねえんだよ。言っとくが、魔力欠乏症になると相当辛いからな。そうなりたいってんなら止めはしねぇけど?」
片眉を上げて俺を見下ろすグレイブに俺はついに降参した。
「分かったよ。明日にするよ。二人とも明日も手伝ってね!」
「仕方ないわね。一人で倒れられても迷惑だし」
「……ああ、それなんだがな」
俺の誘いに了承してくれたフレイヤに対し、グレイブは暗色を示した。
「なにか予定があるの?」
「まあな、ちょっとレビオノスっていう廃鉱山に用があってな」
「レビオノス鉱山に行くの?なんで?」
グレイブの意外な予定に驚きながら俺はその理由を聞いていった。
「まあな。兵士の仕事が一つあってよ。それで行かなきゃなんねえんだわ。悪いな」
兵士の仕事かぁ。それなれまぁ、しょうがないな。レビオノスに何しにいくんだろ。気になるなあ。
そ〜だなぁ〜、であれば。
「ねえ、それ。俺たちも付いていっちゃダメ?」
そう聞くと、初めてグレイブの顔が少し引き攣ったように見えた。
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