第15話 瓦礫と鉱石

 人生生きてりゃ誰しも何かしらの壁に当たるもので、それがどんなものかというのは人それぞれだ。人生十色と言われるだけに、その壁の種類も幾億通りあり、正に千差万別。内面的な悩み事から人間関係、仕事などに至るまで。人はあらゆる場面で人生の岐路に立ち、選択を迫られる。そこには大抵、壁が立ち塞がっている。

 人が成長する時とは難関だと思われていた壁を死力を尽くして乗り越えた時であり、その先に広がる景色を見て初めて人は己の変化に気が付く。


 ……らしい。


 今までの経験上、俺はどうだっただろうか。

 前世の記憶からはあまり自分が成長するような壁にぶち当たったことも、必死こいて乗り越えたこともなかった気がする。俺は常に趣味を優先して生きてきたからな。趣味の道に聳え立つ壁というのは、大概は金と時間さえあれば乗り越えられるものばかりだ。イベントとかグッズ予約とかそんなんだ。

 そこに己の成長もあったものではない。

 だから、というわけでもないが。

 転生しても中身はオタクそのもので何も変わっちゃいない。

 オタクに何ができる?

 前世の記憶があるからどうした?

 俺は魔法も使えなければ、幼馴染の女の子に力負けするくらいの弱っちいただの子供だ。


(ああ、くそったれっ!ダイアスに閉じ込められた時の対策とか聞いておけばよかった!)


 血だらけの手で片刃のピッケルを振るっていく。

 片足立ちのせいでいまいち力が入りにくい。だが、そんなことはどうでもいい。一ミリでも深く掘り進めなければ。


(よくも転生した先でこんな壁にぶち当たらせてくれたな。やっぱりこの世界に神なんざいやしねえ。乗り越えるどころか、完全に塞がっちまってんじゃねえか!子供の俺にどうしろってんだよ!)


 一寸たりとも人の通ることのできる隙間の無い瓦礫の壁に俺はピッケルを打ちつけていく。

 フレイヤに肩を貸してもらいながら暗闇に包まれた坑道を進む中、俺はこんな状況を目の当たりにするんじゃないかと何度も思っていた。

 それが現実になってしまって、俺は今までにないくらい絶望を胸に抱いた。それと同時に思考が停止していった。

 覚悟していた筈だった。きっと思い通りにはいかないと。だが、やはりそれを目の当たりにしてしまうと、想像していたよりもキツいものがあった。覚悟なんて聞こえのいい言葉は紙屑同然に一瞬にして散り散りになっていった。

 それでも今こうしてピッケルを振り翳し、足掻いているのは何も自分のためではない。


(なにがなんでもフレイヤだけは地上へ帰す。この暗い穴の外に出してやらなきゃいけない)


 それだけを思って。

 フレイヤを理由にする言い訳や体裁は色々あった。

 その最たるものが、こんなところで死んでほしくないという思いだ。

 だってそうだろう?

 この子はまだ人生のなんたるかを知らず、挙句、みんなから自分は嫌われて遠ざけられているとさえ思っている。そんな状態で人生が終わってしまって良いわけがない。

 俺はフレイヤに言ってしまった。

 フレイヤが自分は要らない子なんかじゃないと証明してやる、と。

 せめて、死ぬのはその後だ。


「…………っち。硬え」


 青く光りを放つケミルニーダ・クォーツの破片を横に置き、壁の側面に向かって穴を掘り始めたのだが、土が剥がれ落ちた先に硬い岩があってすぐに掘り進められなくなってしまった。


(作戦を変えるか……)


 瓦礫は天井を突き破るようにして道を塞いでいる。

 これを下手に掘って穴を開けようとすれば、きっと更に上から瓦礫がなだれ込んでくるだろう。だから、瓦礫をそのままに通路の壁を掘って通れる隙間を作ろうとしていたのだ。

 それが不可能となると、やはり残されるのは道を塞ぐ瓦礫の排除しかない。


(くっ……)


 ピッケルを振り翳そうとして、俺はそこで止まってしまう。

 更なる倒壊が容易に予想できた。

 そうなった場合、俺たちは逃げることもできないだろう。

 俺は頭を抱えるようにして別の手を考えていく。すると、視界の端で俺を心配そうに見つめるフレイヤに気が付いた。


「ああっ、なんでもない!そんな顔しないで。すぐにここを通れるようにするから。もうちょっとだけ待ってて」

「…………うん、わかった」


 小さく返事をしたフレイヤは膝を抱えて、鉱石の青い光りに視線を落としていった。その瞳にはこれまでの力強い光はなかった。


(このままじゃ心が持たない……。散々支えてもらっておきながら俺が役に立たないわけにはいかない)


 俺はフレイヤの様子を心配しながら瓦礫と向かい合う。

 大小様々な岩の塊が地面から天井にかけて積み上がっているこの壁を突破する方法は何がある。

 現状でどんな手段が取れる?


(瓦礫の側面ではなく、横の壁自体に穴を掘って迂回するか)


 考えとしてはいいだろう。だが、素人が穴を掘り進んで向こう側まで開通させることが可能だらうか?いいや、無理だ。


(目の前の瓦礫は一枚の規則正しく積み重なった壁じゃない。となると、傾れ込んできた上からの圧力は常に掛かってると考えたほうがいいか)


 そうなると、迂回ルートの掘り方次第では横から押し潰されてしまう恐れがある。ただでさえ、崩落を招くほど脆くなっているのだ。側面に小さな隙間を作るのとは訳が違う。加えて、時間も労力も計り知れない。


(他の道はなかったし、上に行ける道はここだけ。別のルートを探すのは無駄。手元にはピッケルとケミルニーダ・クォーツ……、これでどうしろってんだ)


 俺は魔法を使えない。

 つい最近になって魔力の流れとやらを会得したばかりで、大したことはできない。

 フレイヤだってそうだ。魔導機の動かし方を俺より知っているだけで、魔法単体が使えるわけじゃない。

 もし魔法が使えたら、こんな瓦礫、一発で破壊して空を飛んで逃げるってのに。まあ、空を飛ぶ魔法があるかは知らないけど。せっかく魔法の世界に転生したというのに、なんとやるせない。


(せめてここに、他にも鉱石があれば)


 俺はコレクションを爆発させた時のことを思い出す。

 あそこにあったのはーーー。




 ・ベナントクォーツ……薄透明の紫色の結晶体。魔素を分散させる特性を持つ。


 ・ハルガリスタクォーツ……黄色で円柱型の結晶体。魔素の流れを変異させる特性を持つ。


 ・アンサムジオダイト……キャラメル色でやや透き通っている石。魔素から熱エネルギーを生み出す。


 ・グムダイト……濃い紫色をした半透明の石。魔素を回転運動に変換する特性を持つ。


 ・ツァッセリリム……花弁のような形をした真っ赤な石。魔素を受けると一定方向に運動エネルギーを生み出す。


 ・アンビオムクォーツ……濃い緑色をした結晶体。魔素が流れる力を増幅する特性を持つ。


 ・フェールマル……乳白色で赤い筋が入った石。魔素を取り込むと周囲に強い反発力を発揮する。


 ・コルスティッチクォーツ……透き通ったダークライト色の結晶体。魔素の流れ一定時間留める特性を持つ。


 ・レミエムダイト……透明なライトオレンジの石でキューブ型が特徴。魔素を引力に変える。


 ・ガレドナット……半透明なピンク色の石。魔素を実態のある光に変換する。




 その10種類だけでも色んな特性を持った石があった。

 爆発を起こした明確な原因は未だに分からない。だが、石がその特性を発揮すると魔法が使えない俺でもあの時のような爆発を起こすことだってできる。

 この場で何らかの鉱石を見つけることができれば……。


(って、それこそ運頼みだ。ここには普通の石ころしかない。鉱石なんか掘ってる体力があったら、この瓦礫を掘るっての)


 俺はやけくそになって足下に落ちていたただの石を片手で掴み上げると魔力を流し込み、それを壁に向かって投げ付けた。


「…………。ふぅ……一旦休もう」


 俺はフレイヤの隣に腰を据えた。

 元気のない彼女と二、三言話して、ぼぅっとすること数分。


(きっと今頃、ダイアスたち血眼になって俺たちを探してるだろうな)


 人は暗闇の中にずっといると時間感覚を麻痺させてしまう生き物だ。

 自分の体感時間など当てにならない。

 たとえ日常生活のサイクルがいくら規則的であっても、今の疲労困憊の体にはまるで関係なかった。すぐにでも眠りに落ちることができる状態だ。そんな最中で今何時かなどと正確に答えることは不可能というもの。

 スマホがなくてもせめて腕時計があれば、とつい思ってしまう。


(まあ、時間が分かったとしても意味ないんだけどさ)


 俺はいつの間にか肩に寄りかかって寝息を立てるフレイヤを静かに地面に寝かせ、再び瓦礫の前へと立った。


「もう、なりふり構ってられるか。横穴掘って、迂回する。時間が掛かってもいい。なるべく大きく迂回して穴を掘っていこう」


 生きて帰る。

 俺は先ほど石を投げ付けた右側面の壁から掘り進めていこうと決めた。

 そうして、ピッケルを振り上げようとした俺は足下に転がる物を見て動きを止めた。


「マジか……」


 壁の下に割れた石を見つけ釘付けになる。

 その断面は灰色だった外側とは違い、どこまでも黒く、そして、白く光る粒のような物が渦巻いていた。

 まるで一つの天体を見ているようなその断面を俺は恐る恐る触れてみる。

 すると、渦巻いていた光がその触れている部分に集まってきた。


「……どうなってんだ?石の中に動く光って、なんだこれ……」


 これは確かに、さっき俺が魔力を込めて投げ付けた石だった。


(ただの石じゃなかったのか?)


 俺はすぐ側にあった同じくらいの大きさの石を手繰り寄せ、試しにピッケルを振り下ろして割ってみた。


「こっちはただ黒いだけだな」


 そこで試しに今割った石の断面に触れて魔力を流し込んでみた。すると、黒く染まった石の断面に先ほどと同じ白い粒の光が広がって渦巻いていった。


「魔力を吸収してるのか?でも、それならケミルニーダがあるわけだし、これは吸収してどうする石なんだ?」


 俺は徐ろに周りを見渡し、青白い光が照らす範囲に見える同じ大きさの石を見ていく。

 拳大の大きさのその石はこの通路の至る所に落ちている。そして、その大体が通路の脇に集まって転がっていた。特別俺が掘り起こして見つけてきた物でも何でもない。


「もしかして、全部同じ?」


 俺たちが最初にいた場所にこれと同じように角張った石が沢山あった。それが部屋の大半を埋めつくしていたのを思い出し、俺は少し薄寒くなった。

 得体の知れない石が大量に集められた場所。

 この通路はいったい何のために開けられたんだ?

 そんな考えが巡っていく。

 俺はその石を断面が見えるように手のひらに乗せて持つと、もう一度魔力を流していった。

 なにかに使えるんじゃないか。

 そんな気がして、力一杯魔力を流していく。

 渦を巻いて石の中に光が溜まっていき、それはすぐにいっぱいになった。


「眩しくなっただけって。もしかしてこれライトか?だったらケミルニーダで十分だって……」


 色が変わらないように靴下を手袋がわりにしてそれを持ち、謎の石と見比べる。

 魔素を吸収し蓄積するケミルニーダ・クォーツと、魔素を流し込んだら単に光った謎の黒い石。


(こんなの使い道にもなりゃしない。この二つが合わさって何か起きるなら別だけどさ)


 そう思いながら持っていたケミルニーダ・クォーツの破片を謎の石の断面に近づけた。

 次の瞬間。


 ーーーーーーーーーーーーーッ!!!!


「え?」


 触れさせてもないのに、謎の石の断面からケミルニーダ・クォーツに目掛けて光が収束していき、白い光が青い結晶体を通り抜けるようにしてその先端から真っ直ぐ放たれた。


「あっ、ぶねっ!!」


 覗き込むように見ていた俺は間一髪、その光りを躱すことに成功した。驚いた拍子に手に持っていた二つの石は地面に落ちていき、反応は強制的に収まった。

 俺は捻挫していた脚を転んだ拍子に打ってしまい、しばらく痛みにもがき苦しんだ。


(くそいてえ)


 寝ているフレイヤが視界に入り、なんとか悲鳴だけは押し殺す。


(ったく、いったいなんだってんだよ!)


 俺は転がった二つを手繰り寄せる。

 すると、今まで青く透き通っていたケミルニーダ・クォーツが真っ黒く繁殖していた。反対に、白い光りを放っていた謎の石は元の黒い石に戻っていた。

 そして、極め付けは。


「…………」


 俺は薄暗くて見えずらい天井に、新しく折ってきた結晶をふわりと投げて青白い光で天井を照らした。


「どうなってんだよ……」


 先ほどの光が当たったと思われる天井に人一人が倒れそうな穴が空いていた。

 俺はそれを目にすると崩落する危険を考え、穴の下から急いで離れ、フレイヤもその場から遠ざけに掛かる。彼女を引き摺ることには抵抗があったため、持っていた荷物を先に投げ、寝ているフレイヤを腕に抱えて膝立ちで移動していった。


「んん……どうしたの……」

「起こしてごめん。その、ちょっと失敗した」

「なによ……なんともないじゃない……」


 フレイヤが目を擦って起きると俺の腕から降りて、さっきまで居た場所を見て言った。俺は戻ろうとする彼女の手を掴んで止める。


「実は、変な石を見つけて、それを調べてたら天井に穴が空いちゃったんだ。そのせいで天井が落ちてくるかも知れない」


 簡単に包み隠さず言うと、フレイヤは首を横に振った。


「逃げなくても大丈夫よ。落ちてこないわ」

「いや、今じゃなくても、後でそうなるかも知れない。危ないから下がって」


 フレイヤの腕を引きながら言うと、その手を振り解かれてしまった。


「天井が落ちてきたら私はそこで死ぬわ」

「なっ!?なに言ってんの!死んだら帰れないじゃんか!」


 俺は予想だにしなかった潔すぎる言葉に反射的に怒鳴った。


「ここまで来て死んだら意味ないだろ!危ないって言ってんだから下がれよ!生きてなきゃ帰れないだろ!」

「なに言ってるのか分かんない」

「ーーー!?待てよ、それどういう意味だよ!」


 このガキ、さっきまで落ち込んでたと思ったら次は自殺願望か!?ふざけんな!

 だが。

 怒る俺に対し、フレイヤは全くその気配はなく言った。


「天井が落ちてきても、落ちてこなくても、今帰れないのは一緒じゃない」

「だからそれはーーー」

「もし天井が落ちてきたら、私たちは絶対に帰れないと思うけど。あんたは、帰れるって言えるの?」

「っ………………」


 俺は頭に血が昇るばかりで、その的を得た質問に答えられなかった。

 なぜなら、俺もフレイヤの考えと同じだったからだ。

 子供でも分かる。

 帰還が絶対的不可能な状況。

 フレイヤは俺が言いあぐねていると、そのまますたすた歩いて行ってしまった。


「灯りちょうだい」


 そう言われ、俺は無言で結晶の破片をフレイヤの足下に投げた。彼女はそれを広い、青白い灯りを掲げるようにして穴を見ようとする。


「これ、どうやって空けたの?」


 俺はケミルニーダ・クォーツの大きな破片とピッケルを拾うと、仕方なくフレイヤの元に歩いていった。


「そこら中に落ちてる石があるだろう。ほら、これ。魔力を注いだところにケミルニーダを近づけたんだよ。そしたら、光が天井に当たってこうなった」


 つまらなそうに言う俺に対し、フレイヤは石を拾うと握っていった。おそらく魔力を込めているのだろう。


「別に割らなくてもいいんでしょ?」

「いや、分かんないよそんなの」

「そう。じゃあ、このままやってみるわ」

「やるって、まさか!」


 俺は結晶を謎の石に近づけようとするフレイヤの手を掴んで辞めさせる。


「なに考えてんのさ!」

「なにって、脱出に決まってるじゃない。こんな大きな穴を開けられるんだから、こんな瓦礫、一瞬でしょ」

「いや、だから、瓦礫を消し飛ばしたとして、またさらに上から降ってきたらどうするのさ。それに、瓦礫を超えた通路の奥がどうなってるかも分からない。下手に撃ち込んで向こうの通路まで破壊しちゃったらまた崩れる危険がーーーっ!?」


 すると、フレイヤが空いていた手で俺の頬を平手打ちしてきた。


「いっぱい考えてくれてるのは分かったわ!でも、このままじゃやっぱりダメよ。もし天井が崩れてきたら私が責任を持ってなんとかするわ。怪我人は黙ってついて来なさい。絶対に外に出してあげる。だから行きましょう!」


 なんだその理論は。

 さっきまで散々落ち込んで元気もなかったくせに。

 なんでいきなりこうなるんだよ。

 これだから子供は。

 絶対に外に出してあげるだって?

 ふざけんじゃねえ。


「待って、フレイヤ」


 手を引いていこうとするフレイヤを俺は力強く引き留めた。


「なによ!まだ文句があるって言うの!」


 俺は首を横に振って、小刻みに震える彼女の手を優しく解いていく。


「違う。準備だよ。ちょっと待ってて。すぐ終わるから」


 俺はしゃがみ込むとピッケルの先端を使って謎の石を手元に手繰り寄せ、ごつごつした表面に一点だけ細い穴を空けていく。そこにケミルニーダ・クォーツの角柱型の結晶を大元から折って差し込んでいった。


「素手で触るのはこの黒い石だけにして、どっちかの手が使えるようにしよう。ケミルニーダをずっと持ってたらなにが起こるか分からないしね」


 俺は無理矢理合体させた無骨な石をフレイヤに渡しながらそう言った。


「多分、この状態だと魔力を流し始めた時点で少しずつ光が照射されると思う。その間に狙いを定めて、一気に力を込めよう。そして、瓦礫の壁をぶち抜いて走る。それでいい?」

「いいもなにも、それは私が考えてた作戦よ!」

「さいで」

「ほら、肩に腕回しなさい。さっさと帰りましょう」


 なんだかな。

 フレイヤが年相応に見えないのが、ほんと可愛げかなくて残念だ。


(まあ、そのお陰で決心がついたんだけどね)


 フレイヤを無事に外へ出す。

 それは大人である俺の役目だ。

 一か八かでも構わない。

 選択を誤らないことが先決だ。

 この壁を抜ける最大にして唯一の有効打を俺たちは共に選択した。


「いくわよ!」

「あいよ!」


 俺はフレイヤの肩を借りながら、石を構え、彼女の合図と共に魔力を込めていった。





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 夕闇が本当の夜闇に変わっていく最中、レビオノス鉱山の根本とも言える場所から空に向けて白く神々しい光が走っていった。

 光によって貫かれた山の側面からは土煙が上がり、その中から二人の子供の影が見え隠れしている。片方は茜色の長髪の女の子で、もう片方は短いブロンドヘヤーを坂立てた男の子だ。

 二人はしばらく空を見上げると、木々と草が生い茂るその場に倒れていった。

 二人して笑い声をあげると、やがてどちらともなく涙を流し、そうしてまた笑い声をあげていく。


 ディアナス村の住民はそんな二人のことは梅雨知らず、光の柱がレビオノス鉱山から山向こうの空目掛けて登っていったことすら知らなかった。

 だから、泥だらけでボロボロの二人が村に帰ってきた時には大騒ぎになった。

 誰しもが医者を呼べと叫び、大人たちはこぞって救急箱とお湯、それにタオルやら着替えやらを持ち寄ってきた。

 そんな人だかりが出来ていたからだろう。

 二人の両親が何事かと血相を変えて駆けつけた時には、子供二人は笑ってしまった。

 多少の怪我はあれど、無事に帰ってこれたことをようやく実感しての笑みだったのだろう。まあ、両親達にはそんなこと分からないわけで何を笑っているのかと怒られてしまったが。



 それでも、俺とフレイヤは笑わずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る