第6話 従順なるオタク
「おはよう、父さん」
「お、おお。ダイス。おはよう」
俺の朝は早い。
「じゃあ、行ってきます」
起床と同時に出勤だ。
「なに?もう出るのか!?」
日の出と共に鉱山へ出勤する父の声に俺はふっ、と無理矢理笑みを作って答える。
「自分には仕事があるので」
自分だって仕事のために早起きして支度をしているくせに。ダイアスったら、もしやまだ寝ぼけているのかな?
「いや、それにしたって。お前、朝飯は?」
玄関の前に立つ俺にダイアスは困惑したように聞いてきた。俺はもう一度振り返り、やれやれと首を振った。
「何言ってるんですか、父さん。数時間前に食べたばかりじゃないですか。それでは」
「おい、待てダイスッーーー」
ーーーそれは夕飯だあ〜〜〜!
と、突っ込みを入れる父の声を背中に受けながら、俺はまだ日の出ていない外へと
出勤したら、まずはフレイヤ家周辺の清掃から着手する。空が白み始める前にそれを終えると、次にフレイヤの父ザッカスのお見送りだ。
「おはようございます。ザッカス様」
「……えーと……、いつも、ありがとう、ダイス君。……じゃ、じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ」
お辞儀をしてその姿が見えなくなるまで見守る。
さて、お次は畑仕事だ。雑草を片っ端から抜いていき、水を撒いていく。それと同時に植えてある作物の茎と葉の状態を隈なく見て虫や病気に侵されていないかチェックしていく。
そうしている内に時間はあっという間に過ぎ、続いてフレイヤの母カトリーヌの出勤だ。ザッカスは鉱夫で、彼女は村役場勤務で事務を担当している。
「おはようございます。カトリーヌ様。今日も荷物が多いですね」
「そうなのよ。参っちゃうわ。ダイス君みたいな働き者がウチにいれば大助かりなんだけど」
「それでしたら、今すぐにでも」
「あっははは!うそ!冗談よ!あなたはフレイヤの相手をしてあげて。うちの事なんてほっといていいからさ」
「いえ、そういう訳には」
「そうそう。朝ご飯、ダイス君の分もあるからね。それじゃあ行ってきます!」
「ありがとうございます。いってらっしゃいませ」
ふう。多忙な身だというのに元気の良いママさんだ。ぜひ、将来は俺を補佐に加えて欲しいものだ。彼女が上司なら俺は文句一つ言わずに仕事をする自信がある。
それに引き換え。
「なに突っ立ってんのよ」
「あのぉ、それは」
リビングで朝食を食べているフレイヤが俺を眇めるような目付きで捉えると、俺が見ていた視線の先の物を手繰り寄せていく。
「なによ?」
「カトリーヌ様が朝食を用意して下さったと聞いたのですが……」
「はっ?そんなの見りゃ分かるじゃない」
フレイヤは次々に皿を空けてゆき。
「ごちそうさま」
全てを完食すると席を立った。
「片付けなさい。それが終わったら。洗濯。その後は家の掃除よ。はあ〜、最近朝ご飯の量が多くて困るわ。私が太ったらどうしてくれるのかしら」
俺の分まで食うからだ、こんちんきしょうめがっ!
「なに?」
「いえ。なにも」
「ふんっ」
「……(ムカつく〜〜〜!!)」
なにをどうしたらこんな育ち方するんだよ!ありえねえ!生まれながらに歪んでないと、こうはならないぞ。
「洗い物追加」
「はい」
「掃除、まだ終わらないわけ?」
「もうまもなく」
「お腹すいた。お昼まだできないの」
「はい、ただいま」
そう。
俺は例え仕事に不満があろうとも業務を遂行できる人間だ。
与えられた仕事は完璧にこなしてみせる。
重度のオタクを舐めるなよ。
お前みたいな最低キャラは腐るほど見てきたわ。そういう奴に限って非の打ちどころのない相手というのが一番のストレスになるのだ。
(理由は分からないが、どうせ俺をこき使って痛ぶるのが目的なんだろ。だったら俺にだって考えがある。貴様に気持ち悪がられるほど完璧にこなして、貴様の口から解雇処分を言わせてやる。更に貴様の両親にも媚び諂う事で、同情を誘い、ダイアス達に俺を許すように口添えを促す)
ふくくくく。
我ながら素晴らしすぎるプランニングだ。
5歳児の女の子相手に手をこまねく俺じゃないのだよ。
「ふはっはっはっはっは!ひれ伏せ、散れぇ!ゴミカスどもが!」
「ああん?あんた今、私に向かって言った?」
「ちち、違いますっ!掃き掃除してたらなんだか楽しくなっちゃっただけで、ほら〜ここが塵取りだよ〜集まれ〜ゴミカスども〜」
「チッ。あんた、そんなに掃除が好きなら倉庫の掃除でもしてきなさいよ。私、お昼寝の時間だから」
あっぶなぁ。5歳児こっわ!胸ぐら掴んでメンチ切ってくる子供こっわ!
そうして、仕事を始めてから数日。
俺は今まで立ち会ったことのないフレイヤ家の倉庫へと足を運んだ。
母屋から少し離れた所にあるそれは100人乗ってもびくともしないような大きな平屋の形をしていた。
いったい何を入れているのか。
ザッカスが今までに掘り当てた鉱石とか?
それともカトリーヌが育てている菜園の作物とか?
「まあ、普通に考えたら前者だろうが、鉱石は言い過ぎだな。仕事道具の云々が置いてあるだけだろう」
俺は横開きの扉を開けると中へと入っていった。
窓から入る日の光りのお陰で真っ暗ではないが、物影が多くて少し薄暗い。床に籠やら荷車などが置かれていて狭い。予想した通り採掘に使う道具なども置かれていた。そうして、並べ置かれた物を見ながら奥の方へ進むと作業するには打って付けな広いスペースに行き当たった。
「ここは倉庫だけど、お爺ちゃんが使ってた作業場でもあるのよ」
「うおあっ!?フレイヤの姐さん、いつからそこに!お昼寝は?」
「いつ、ってずっとよ。あんたが変なことしないように私は監視してなきゃいけないから、寝てなんていられないわ」
気配も無く意味わからん理由で背後に立たないでもらいたい。俺の命狙ってるのかと勘違いしちゃうからさ!
そんな俺の考えも梅雨知らず、フレイヤは中央に置かれた机に向かっていく。
俺もそれについていくと机に置かれた地図に目が入った。
それはダイアスたちが掘り進めている山とは違う場所を示した地図だった。
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