筋肉は筋肉でも……?

仁志隆生

筋肉は筋肉でも……?

” 筋肉祭開催中! ”

 そんなのぼり旗が立ってる古ぼけた店があった。

 てかここ入った事ないが本屋じゃなかったっけ?

 あ、もしかしてその手の本をたくさん入荷したとかかな?

 なんか知らんが面白そうだし覗いてみるかと思って中に入ると……お!

 

 店内には筋肉は筋肉でも昔流行っていた漫画「筋肉男」の本やらグッズやらが店中所狭しと置かれていた。

 俺の親父がこの漫画の大ファンで、単行本全巻にアニメのビデオテープも全部持ってて、やはり当時流行ってたという消しゴム人形も山程持ってる。

 それを子供の頃から見ていたおかげもあり、親父ほどではないが俺も好きなんだよなあ。


 そう思いながら店の中を見ていると、ケースに納められているフィギュアが幾つもあった。

 いやすっげえリアルだな、肉づきが本物みたいだわ。

 しかも値札に書かれている値段はそんなに高くない。

 この出来栄えならもっと高くていいと思うんだが、出血大サービスなのかな。


 そうだ、せっかくだし親孝行のつもりでひとつ買ってやろうかな。

 フィギュアはまだ手を付けてないはずだからと思った時だった。


「あ、いらっしゃいませ~」

 後ろから可愛らしい声がした。

 振り返ってみるとそこにいたのは小学校低学年くらいで、白いシャツに赤いスカートという服装の女の子だった。

「ん? もしかしてここの子?」

「そうだよ。今はあたしがお留守番してるの」

「へえ偉いね。けどレジとかできる?」

「大丈夫だよ。そうだ、これご来店サービスだよ」

 女の子がそう言ってポケットから取り出したのは、どうやらゆで卵のようだ。

「うん、ありがと」

 俺はそれを受け取り、とりあえずズボンのポケットに入れた。

 しかしお父さんかお母さんのアイデアなのか、とことんやってるなあ。

「ねえお兄さん、何か買ってくれるの?」

 女の子が笑みを浮かべて聞いてくる。

「え、うん。フィギュアをと思ったんだけどね……えっと」

 よく見ると主人公のは無いな。

 親父はよく「たとえ人気投票で一位にならなくても、俺にとってはあの人が一番なんだ!」と熱込めて言ってたなあ。

 だからあれが売ってたらよかったんだけどな。


「あ、欲しいキャラ言ってくれたら出すよ~」

 どうやら察してくれたのか、女の子がそう言ってきた。

「ありがと。じゃあ主人公のはある?」

「うん、ここにね」

 女の子が俺の手を取……。




「あれ~? なんでだろ、違うのになっちゃった~?」

 少女はそこにあったフィギュアを見ながら言う。

 それは筋肉ムキムキだが、何故か光の国の超男だった。

「ん~。ま、後でちゃんと直してからお父さんに送ってあげるね~」

 少女はそう言った後、落ちてたゆで卵の殻を剥いて食べ始めた。

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筋肉は筋肉でも……? 仁志隆生 @ryuseienbu

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