奇矯式 部品交換型 膂力増強法

@pty029

奇矯式 部品交換型 膂力増強法

 万物は構造に従う。


 卑近だがひとつの失敗を話したい。人類最強を目指した馬鹿な奴の話だ。


 家のローテーブルには常に、テストステロンエナント酸エステルサラトニマブの瓶と注射器があった。筋肉増強の枷を外すクスリだ。抗体医学とホルモンのミックスと聞く。これを筋注するのが習慣だった。

富士試薬社FUJI Reagent inc. 」、メイド・イン・ジャパンだ。連中のガジェットとクスリは間違いない。


 計画は完璧だった。超回復の時間は秒単位で測った。遅効のソイ、速効のホエイ、これらの摂取タイミングに合わせ、どこをどう苛め抜くかも決めていた。

 俺はまさに機械の如く計画を達成、フォークリフト程度なら軽々と持ち上げられる筋力を得た。

 これが人間の骨格、構造限界。


 俺は大会で敗北した。二位。

 あいつはトラックを持ち上げて優勝。人類最強の座はライバルが手にしたのだ。


 いままでの苦労は。徒労。屈辱。絶望。嗚咽。怒り狂って家を破壊してしまった。 勝てるはずだったのに!

 

 敗因はひとつ。「シャシー」が違うのだ。

 あいつは骨格を「モガミ・インダストリー」製に変えたらしい。だからあいつはもっとヤバいクスリを使えて、構造の限界を超える筋肉を手に入れられた。

 だから、人類最強の座を手にすることが出来た!


 俺は人類最強になるために生まれた。

 達成するまで死ねない。


 何をやってでも、俺こそが最強だと証明して見せる!


 俺の再起プランはこうだ。

 骨格を「ヨネダ・ダイナミクス」の最新モデルに取り替えた。カルシウムの塊など要らん。より強力に成長する人工筋肉も取り入れたい――ヤマダ・ワイヤがいいだろう。血管も、神経も、内臓も見直さなければ。


◇◇◇


「俺は次の大会で勝てた。その時に気づいた。俺はもう人間じゃねえ」


 バーで横の席になった全身サイボーグの男はそんな話をした。寂しそうに。


「人類最強のために人を辞めるなんて論理構造が狂っている。これが最大の失敗だ」

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