第5話 PKギルド

 ここはダイレクトに聞かない方が良いだろう。遠回しに聞き出す方法を探っている。もしもエージェントなら、依頼主は誰と聞くにはどうしたら良いか?


 ――名前と姿だけでは不足か?


 今はイタマールからの仕事でREOをプレイしているが、依頼主探しで詰んでいる。ヘカレスはエージェントではないかと、淡い期待をしているのだが……相手もプロだ何か行動で示すだろう。


「依頼じゃないぜ、自分の意志だ」


「PC殺しは趣味なの?」


「あぁ、そうだ。病んでる世界を正すには死が不可欠だ」


 エージェントではないのか? それとも合言葉が違うのか? 聞きたい答えではない。イタマールは特殊な任務と言った。今まで特殊なんて言葉を使ったことがなかったから、帰り道に自然と口角が上がり足取りは軽かった。


 だがその思いは外れた。依頼主がこの広い世界の中で、接触してくることは不可能に近い。

 1度死んで、はじまりの町に残るべきだったのかと悩む。


 ――死ぬのは嫌だ。


 それが例えゲームの中だとしても生き残りたい。

 げんを担ぐ方ではないが、死ぬのは嫌だ。ゲームとはいえ死ぬことに慣れたら、現実に影響する。


 ――何が何でも死物狂い生きてやる。


 と思っていないと生き残れない世界。

 それが殺し屋の世界だ。


「知りたいことがあるんだけど、教えてくれる?」


「あぁ、構わないぜ。もう直ぐ森に出るから、そこで話そう」


 アテマを南に進んだ所に森がある。岩肌の見える山の麓で馬を停め、降りると馬が目の前から消えた。それも聞きたいが他に聞きたいことがある。


「離れた場所に居る人にコンタクトって取れる?」


「あぁ、名前が分れば取れるよ。右上に吹き出しのアイコンがあるだろ? 名前を入力すればスマホのように会話ができる」


 ガブリエラは本名だ。だから依頼主はこの機能を使えば連絡が取れるってことだ。焦ることはなかったんだ。ただ待っていればいい。


「友達登録しようぜ、その方が通話ができるから会話を聞かれなくて済む」


 ついに本性を現したか、やはりエージェントだった。

 目の前に現れた『ヘカレスを友達登録しますか?』にYesをタップする。


 すると先程と何ら変わらずに会話ができる。違うのはパスポートのような画面が表示されていることだけだ。そこには顔とステータスが表示されている。


 さて、依頼内容は何だろうかと顔を覗く。プレートヘルムの奥に隠された表情を見たい。この世界での仕事なのか? それともリアルか? そろそろ話してもらおうか?


「それで、何が知りたいんだ?」


 ――知りたいのはこっちだよ!


 あれ反応が何か違うな。わざわざ通話にまでしたのに、秘密の話しがあるんじゃないのか? そう来るなら質問でもしとくか。


「馬が欲しいんだけど、出し方と入手方法を教えて」


「右上の本のアイコンを押すと左手に冒険の書が現れる。その中からペットを選ぶと外に出せる。入手方法は他のプレイヤーから買うか、野生の馬を捕まえるかだな。白一色や黒一色の馬は人気があって高値で売れる。売るのはバザーでだぞ」


 何となくだけど理解し始めてきた。できなかったことも冒険の書で色々なことができそうだ。会話にあったバザーはPC間で売買する場所らしい。


 沢山の武器や防具が一覧に表示されている。わざわざ店に行かなくてもここで買えることが分かった。


「銃で戦うスタイルの場合に必要なステータスは?」


「武器を持つためのSTR、遠距離攻撃力が上がるDEX、ヘッドショットのダメージが上げるLUKだな」


 LUKはクリティカル発生率が上昇し、クリティカルダメージが上がるステータスらしいのだが、裏設定としてクリティカルダメージはヘッドショットのダメージを上げる効果があるとのことだ。


 上げるステータスは分かった。いつまでも初期値のままでは危険なので、少しずつだが振っていこう。


「何年プレイしてるの?」


「んっ? REOは始まってまだ半年だぞ」


 目を見開きヘカレスを見る。2~3年は経過しているゲームと思っていたから……それにしては、みんな上手過ぎではないか?


「俺はオープンβ組で、先行してプレイしているから多少は強いかな」


 何となくニュアンスで分かる言葉は質問しない。

 お互いに時間の無駄だからだ。


「暗闇の砂漠で青ネームと戦ったんだけど、名前が消えたり現れたりするの。何か分かる?」


「そうだな。姿を消すハイドか、同化するカモフラージュ辺りではないかな。どちらも姿が消えるし名前も消える。だが動いたり攻撃行動をとると解除される」


 それかもしれない。ヘルプを見て調べると分かったことがある。


 ハイドは姿を消すスキルで、魔法ではないから近代を持っていても使える。

 カモフラージュはアイテムによる効果だ。砂漠用迷彩マントを身に纏うと砂漠で姿を消せるようだ。


「ちょっと仲間から連絡だ。待っててくれ」


 と言うとパスポートが灰色になった。

 だいぶクリアーになってきた。そして焦らなくても連絡は来るということだ。


 ステータスを確認する。


 名 前:ガブリエラ

 種 族:ヒューマン

 レベル:6

  HP:250/250

  MP:100/100


 STR:10

 VIT:5

 DEX:30

 AGI:5

 INT:5

 SPR:5

 LUK:5


 どの武器をメインで使うかでSTRは変わるから、多少振る程度にしよう。今はダメージが欲しいからDEX振りでいく。


 するとパスポートが1枚増えた。青髪に黒瞳の少年で同い年くらいに見える。名前はハザード。誰だろうか?


「君がガブリエラかな、僕はハザード。炎の魔法使いだよ。ヨロシク」


 すると青い空間が見え、中から少年が出て来る。


「これはポータルだよ。中に入って話しをしよう」


 そう言うとハザードはまたポータルの中に消える。そして立ち上がったヘカレスもポータルの中に入った。


 ――この前は無人島に連れて行かれたが、今度は何処だ?


 立ち上がりポータルを抜けると、建物の中のようだ。白い壁に赤い絨毯が敷かれ、窓から見える景色は白い雲が下に漂い、青い空が眼前に広がる。天と地が逆さまになったみたいだ。


「僕は咒鬼じゅきのギルドマスターだよ。僕らはPKギルドをしている。ヘカレスから君の腕前は聞いているよ」


 とハザードが話しながら窓の方へ歩いていく。

 すると振り返り手を差し伸べた。


「僕らのギルドに入らないかい? カブリエラの力が必要なんだ」


 ――遂にキターー、これが任務かっ!

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