第4話 赤ネームの村
青ネームが見えた瞬間にトリガーに指を置くと、また見えなくなった。
こうなったら接近戦しかない。暗闇なのは相手も同じはず。右から大きく回り込むと、1発の銃声が鳴る――
素早くうつ伏せの体制になり右に転がると、スコープを覗く。砂漠は音が跳ね返る障害物がないため、射手の位置が明らかになる。そしてこの暗さならマズルフラッシュでも居場所が分かる。
見付けた射手の眉間目がけて放つ弾丸――素早く立ち上がり走り出す。
すると銃口がマズルフラッシュで光り射撃音がする――
その瞬間、素早くうつ伏せの体制になりスコープを覗く。
名前が見えなくなる理由は分からないが、居場所を捉えてしまえば攻撃はできる。
月が雲に隠れた瞬間に飛び出す――
拳銃を手に取って、射手が居た場所に弾丸を撃ちまくる。
《レベル6にアップしました》
《ステータスポイント5、ラーニングポイント1が追加されます》
またうつ伏せの体制になり空を見上げ、次の月明かりを待つ。
すると男の名前にDeadの文字が見える。だが敵は1人とは限らない。雲から月が顔を出したのを合図に、倒した射手の元へ走り出す。
スライディングして射手の横に並ぶと、眉間に1発撃ち込んだ。
そして戦利品が無いか確認するとポーチの中身が見える。どうやら金は奪えるらしい。早速、金を盗ると20、125リベルを手に入れた。
警戒しながらキャラバンに戻ると、倒れている男達の懐を探る。
戦利品は金とAK-47アサルトライフルを手に入れた。どうやら武器も奪えるらしい。合計12、100リベルを手に入れた。
すると右上の?が輝き出す。
【キャラクター】
PCとはプレイヤーキャラクターの略で、人が操っています。
NPCとはノンプレイヤーキャラクターの略で、機械が操っています。
【戦利品とは】
NPCやモンスターを倒すと一定の割合で戦利品を奪うことができます。
PCを倒すと青ネーム、赤ネームに関係なく、所持金を奪うことができます。
赤ネームだと、全てのNPCとPCを倒して良いことになる。ある意味分かり易いな――殺して奪えばいい――なんだ簡単なことだ。
落ちているナイフを拾い、ロープで繋がれているラクダを切り離してまたがると、月が沈むのと反対の方向を目指して歩かせる。
仄かに地平線が明るくなって、太陽が登ってくると町並みが見えてきた。
城門などはなく、木の杭が打ち込まれ、アテマと書かれた看板がある。それを越えた所に、ログハウス風な家が建ち並び、町というより村だなと思った。
ここには赤ネームしか居ない。NPCも全員が赤ネームだ。
入っても襲ってこないことが分かると、拳銃を腰にしまい武器屋を探す。
まずは物価を知りたい。武器は幾らするのかとか、水筒や水の値段。馬もできたら欲しい。そして何よりも地図だ。これが無いと旅ができない。
すると馬が庭を走り、蹄鉄のマークの看板が見える。厩舎だろうか中に居る男性に話しかける。
「ラクダって売れる?」
「そうですね。状態も良いですから、1万リベルで買い取りますよ」
1万リベルの価値も分からない。悩んでいても仕方がないので、ラクダを売ると金を受け取った。
「馬は幾らするの?」
「うちはレンタルしかしてませんよ。1日1、000リベルです」
PPKの奴らは馬を出したり消したりしていた。その方法も知りたいが、まずは馬を手に入れる手段があるはずなんだ。ラクダのように馬も奪えばいいのだろうか?
「ねぇ、道具屋って何処かな?」
「隣ですよ、お嬢ちゃん」
「あっ……ありがとう」
お嬢ちゃんと言われたことに恥ずかしさを感じながらも、隣を見ると試験管マークの看板を掲げた建物がある。
中に入ると背の低い店員がこちらを見てやってくる。ここがファンタジーの世界ということは、彼はノームなのではないか?
ファンタジーを愛読しており、知識は全て本から得たものだ。だから想像でしかないのだが、瞳は輝いているかもしれない。
「えっと、地図ってあるかな? 町の地図と世界地図の2枚なんだけど」
「町の地図は酒場に置いてあるよ。タダだからそこで貰いな。世界地図は2、000リベルだよ」
思ったよりも高くない。住んでいる国と同じくらいの物価と考えて良さそうだ。2、000リベルを払うと世界地図を手に入れた。
これで町の位置関係が分かる。
地図を広げアテマを探すと、マリアス王国の東に位置する場所にある。そしてはじまりの町であるバルラは北西の位置だ。その真ん中にマーラ砂漠が広がっている。
キンダリ山脈とは反対に進んだのは当たりだったようだ。行っても山しかなく途方に暮れるところだった。
「AK-47アサルトライフルは幾らで売れる?」
「そうだね。1、500リベルってところだね」
持ってきた武器を売ると、外が騒がしいので店中から見ていると、フルプレートメイルの者が拘束され、馬に引きずられて目の前を通り過ぎる。店を出て近くの人に話しかけてみる。
「ねぇ、何があったの?」
と赤髪の女性に話しかける。
この人はPCだよねと顔を覗きながら見ていると、眼を見て話し始めた。
「PC狩りのヘカレスよ。賞金額は5千万リベル。街を1つ滅ぼしたって聞いたわ」
ヘカレスがエージェントって可能性は?
指示を受けて任務を熟すことが当り前だったから、指示がないことに胸がザワつき、心が鉛でできているように重くなる。
だから早く依頼主に会い、任務を貰いたいのだが一向に接触してこない。
とりあえず話ができるか行ってみようと、引きずられた跡を見ながら歩き出すと、同じような野次馬が烏合の衆となっている。
到着したのは村外れの広場だった。そこに死刑台が置かれ、脚を折り曲げ前屈みになったヘカレスは、斧で首を斬られようとしている。
賞金首を殺すと賞金が手に入る。その額は5千万リベルだ。想像も付かない大金で価値が良く分からない。そして殺されたヘカレスは青ネームになって生き返るんだ。
――この世界は命が安い。
処刑台で屈み込むヘカレスを見て思ったんだ……。
すると騒ぎ出す観客――振り上げられた斧が陽の明かりで輝くと、1発の銃声が鳴り響く。
手から離れた斧がヘカレスの目の前に突き刺さると、モーゼのように海が割れ、1本の道が出来上がる。真っ直ぐ走り抜けると邪魔をする者達を撃ち殺し、ヘカレスのロープをナイフで切った。
「そう、助けなきゃって……」
立ち上がるヘカレスは、斧を抜いて走り出す。
悲鳴の渦の中、拳銃を連射して眉間に風穴を開けていく。
それは一瞬だった――
体を軸に斧を振り回すと、体を真っ二つに斬り裂いて駒のように進んでいく。飛び散る血が辺りを汚し、観客が逃げ惑う中を走り去る。
――何て奴なの。街を1つ滅ぼしたって噂は本当かもね。
《お知らせ:賞金が上乗せされました。只今の金額は11万リベルです》
そうなるよねと思いながら、ヘカレスの後を追い走り出す。
すると黒馬を出してまたがると、振り返り手を差し伸べる。無意識に手を掴みまたがると、速度を上げる黒馬。
やがて追手は小さくなって見えなくなった。
長く滞在できない運命か? 来たばかりなのにもう出るのかと、楽しむ暇もなく慌ただしいのは人生とよく似てる。
「あんたニュービーだろ? いい腕してるな。俺なんか助けても一銭にもならないぜ」
「助けたかったからそうしただけよ……。それよりPCを殺してるって聞いたけど、誰かの依頼?」
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