第3話 町からの脱出
町に戻るとみんなの挙動が変だ。先程と対応が違うことに疑問符が脳裏に浮かぶ。すると石を投げてくる町民。武器を持って攻撃を仕掛けてくる冒険者。容赦なく眉間を撃ち抜いていく。
襲われるなら殺すまでだ。海へ少しずつ後退しながら拳銃で撃っていると、物凄い轟音が鳴り響き、光の塊が飛んできた。右に前方宙返りをして攻撃を避けると、逆さの状態から女の眉間を撃ち抜く。
《ヘッドショット。ダメージ12、000》
眉間に当たるとヘッドショットで一撃だが、少しでもズレると駄目らしい。
それなら正確に眉間を狙うまでのこと。風がないのが幸いしてヘッドショットを連続で決めていく。
追いかけてくる町民や冒険者。
手当たり次第に射殺していくと、奥から騎馬兵がやってくるのが見える。その姿はフルプレートメイルに身を包み、槍とカイトシールドを持っている。
そろそろ潮時かなと思っていた矢先――
《お知らせ:賞金首になりました。只今の金額は1万リベルです》
「えぇ、嘘でしょ?」
あまりの数の多さに、家と家の隙間に入り、ブロック塀を伝ってその場から撤退することにした。
《レベル5にアップしました》
《ステータスポイント5、ラーニングポイント1が追加されます》
もしかしたら、このゲームの全員が敵なのかもしれない。殺し合い生き残れというのなら勝ってみせる。私の実力が知りたいのなら見せてやろう。それが特殊な任務なのだろう。
壁裏に隠れながら右上で光っている?をタップするとヘルプ画面が現れた。
すると赤い文字で書かれた箇所を読んでいく。
【犯罪者フラグとは?】
通常の状態の青ネームに犯罪行為を行うと、赤ネームとなり犯罪者になります。
犯罪者は町民からも攻撃を受け、施設の機能を使うことができません。
赤ネームは現実世界の30分が経過すると青ネームに戻ります。
どうやらPPKの連中を攻撃して、赤ネームになったみたいだ。右上を見ると確かにガブリエラの名前が赤色で表示されている。
現実世界の30分、ここでヘルプを読んで情報収拾だな。
【魔法について】
魔法は、領域の解放、次元の指定、力の源、そして魔法名称です。
この世界の武具は近代と古代に分かれます。
近代の武具を装備してしまうと、魔法が使えませんので注意してください。
拳銃を持っていたから魔法が使えなかったということになる。
チュートリアルで教えろよなと思いながら、拳銃を見て今更魔法もなと構えた先には猫が1匹こちらを見ている。
もちろん魔法を使う憧れはあった。映画の中の主人公のように魔法が使えたのならと思う時もあったけれど、使い慣れている銃の方が戦い易いことは分かっている。
そう現実世界では殺し屋なんだ。一般人に負けるつもりはない。
【武具について】
この世界の武具は近代と古代に分かれます。
近代は軽くて魔法耐性が低いが衝撃に強い特徴があります。
古代は重くて魔法耐性が高いが衝撃に弱い特徴があります。
近代を持てば魔法が扱えなくなってしまうデメリットがあります。
――ヘルプですら理解できない……やっていけるのか?
そして30分が経過したが、ガブリエラの名前が赤色のままだった。
そろそろ青ネームに戻っても良いはずなのに何故だろう?
そう言う時はヘルプを見れば分るのかな?
【賞金首について】
倒したPCから賞金をかけられると賞金首になります。
賞金首を倒すと賞金が手に入ります。
賞金首は赤ネームのままとなりますが、倒されると青ネームに戻ります。
この世界には赤ネーム専用の町があり、アテマなどが存在します。
静かに町中に行くと町民が石を投げてくる。
これじゃ町は使えない。とりあえず町を出る計画を立てたいのだが、何も思いつかない。
さっきレベルとポイントが上がったとあったが、黄色く点滅している右上の体のマークをタップしてみる。
名 前:ガブリエラ
種 族:ヒューマン
レベル:5
HP:250/250
MP:100/100
STR:5
VIT:5
DEX:5
AGI:5
INT:5
SPR:5
LUK:5
ラーニングポイント:5
ステータスポイント:25
振り分けていないラーニングポイントとステータスポイントがあるが、ゲームに慣れていない序盤で振ると、後で後悔する可能性が高い。特にこのゲームをまだ理解できていないから落ち着こう。
まずは町を出ることから始めるんだ。
右手には大きな城が見え、その後ろには山脈が見える。逃げるなら反対側ということだ。
陽が紅く燃える頃には、町民は家の中に入り出す。急に静かになる街並み。部屋の明かりが点いて、窓ガラスから光が零れる。
脱出するなら夜がいいだろう。目指すはアテマだ。
そして夜になると、暗がりを利用して屋根伝えに拱門まで行き、思い切って駆け抜ける。すると追いかけてくる門番は足が遅い。あんなフルプレートメイルなんか着てたら重いだけだ。
走った……走りまくった。息が切れるほど、脇腹が痛くなるほど走った。
そして月明かりの下、気が付くと砂漠に1人で立っていた。吹き抜ける風が冷たくて気持ちがいい。
さて、夜の砂漠は何も見えない。360度、暗闇に飲み込まれ方角を見失う。
すると遠くに明かりが見えてきた。
奇跡が起こったと思った。安堵した。そう思えた瞬間だった。
食べ物も飲み物も持たないままで、町から逃げ出したから腹が鳴り喉が渇く。南に砂漠があるなんて思いもしなかったから、このゲームを甘く見ていたようだ。
砂漠の明かりはキャラバンだった。
助かったと思って近付くと、赤ネームの男達がファルシオンを握り立ち上がる。
「待って……敵じゃないの。戦う意志はないわ」
「お前は犯罪者か?」
何とか会話に繋げることができると、腰を下ろし男達を見る。
赤ネーム同士は仲間だと思っていたなんて馬鹿みたいだ。お互い犯罪者なのだから警戒するのは当り前だ。
隙を見せたら切り裂こうと考えている目だ。
あえて拳銃を腰にしまい、両手を広げて見せた。するとファルシオンを近くに置いて座るキャラバンの男達。
「お前は何故、砂漠に居る? ラクダなしで歩いてきたのか?」
「アテマを目指してるの、場所は分かる?」
「それなら東だ。陽の昇る方角へ進むといい」
ゲームを始めていきなりのこの状況に、胸が波立つどころか波紋すらない。現実では非凡な生活をしているから、ゲーム内でもそうなってしまうのだろう。これも運命なのかもしれない。
「人は運命によって導きを感じるものです。
もしも三度同じことが重なれば運命と思うことでしょう。
突き進むも良し。立ち止まるも良し。
それを決めるのはあなた次第なのです。
運命とはなんと都合の良い言葉でしょうか。沢山の解釈があります。
でもそれを受け取ったあなたの選択は1つなのです。
ヤハウェの旧約聖書:2章6節」
聖書の一節を呟いていると、1発の銃声が鳴る――
倒れるキャラバンの男性。うつ伏せになってスコープを覗くと、遠くに青ネームが見える。
「襲撃だ!」
慌ただしくなるキャラバン。ファルシオンを握って戦いに行く男達。
女子供はテントに隠れ、天に向かって祈りを捧げる。
すでにスコープで青ネームを補足している。
無意識に息を止めトリガーに指を置くと、青ネームが見えなくなった。ここは砂しかなく隠れる場所などないと思っていると、姿が現れるや否や、また1発の銃声が聞こえ、キャラバンの男性が倒れてしまう。
――見えたり、見えなくなったり、どうなってるの?
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