もりのくまさん

夕奈木 静月

第1話

「わーい! くまさんふわふわっ! だーいすき」


 こらこら、抱きつくんじゃない。といっても悪い気はしないけどな。


 人間の子どもは嫌いじゃない。大人は俺を見るとすぐに武器を構えて襲い掛かってくるが、敵対心を持たない者には俺だって寛容だ。


 俺は森に住むクマ。ここに住んで数年になる。最近週末になるとこの子が森にやってきて、俺にくっついてくる。


「こらっ! 危ないから離れなさい!」


 あーあ、大人たちが来たよ。うっとおしい。


「はーい」


 子どもは素直に言うことを聞いて俺から離れていく。せっかくの癒しの時間が奪われたよ。


「お前っ! ウチの子どもに何をしようとしたっ!?」


 いや、俺しゃべれないから。そんなこと言われてもなあ……。


 めちゃくちゃ睨まれて……。痛ってえ!! おもきし殴られたし。


 顔の次は腹かよ。仲間も連れてきて、俺、ボコボコにされてんじゃん。他人事みたいに言ったけども、全身痛くてたまらない。


「もうやめて! くまさんがしんじゃうっ!」


 子どもが必死で止めてくれる。


 その通りだよ。これ以上やられたら死ぬかもな。でもやり返すわけにはいかない。やり返したらこの子との至福の時間が失くなってしまう。




 その後も子どもは遊びに来てくれたが、その後には大人たちからの暴行がセットでくっついてきた。


 俺は対策を考えた。


 そうだ、筋肉で身体をガチガチにすれば楽になるんじゃないか。特におなかとか。



 毎日筋トレ、ランニング、川での遠泳、ありとあらゆるトレーニングをした。



 数週間後、自分でも納得いくレベルの身体が完成した。その間、なぜか子どもは森に来てくれなかったが、またいつか来てくれると信じて鍛え続けた。



 数か月後、久々にあの子どもが森にやってきた。


「くまさーん、きょうはごはんもってきたよ」


 おお、助かる。最近は森でも食糧不足が深刻でな。


「ひさしぶりだねっ!」


 うんうん、今、抱きしめてやるからな。


 ぎゅう~っ!


「い、いたいっ! うえーん、くまさんぜんぜんふわふわじゃなくなっちゃった~!」


 えっ……!? ちょっと待ってくれ……。まさか、筋肉のせいだというのか?


「こらー! やっぱり子どもにひどいことしようとしてたんだな!?」


 ち、違うんだ……。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もりのくまさん 夕奈木 静月 @s-yu-nagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説