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「ミーナのその感覚、なんとなく、わかるかも。それって、私が番のディランに出会ったときみたいな感じに似てる。ひょっとして、スライム君がミーナの番なのかも? 人間やスライムに番がいるなんて聞いたことがないからわかんないけど……」
ルーシーが、ミーナにさんざん言って聞かせていた彼との出会いののろけ話は耳タコだ。出会った瞬間一目で強烈に印象づけられ、急速に惹かれ合ったらしい。
惹かれ合う理由はなにもない。ただ、そうあるべきだと、体も魂も何もかもがお互いを求めあうだけだ。6歳のころに、まるで大人顔負けの恋するふたりの様子は、番を幾久しく見つけたという話のなかったドラゴン族全体に一瞬で広まった。彼女たちは、成人とともにドラゴンたち全員参列の挙式をする予定である。
その彼女が、自分でも不思議がっているミーナの感情が、番に出会った時の気持ちに似ているというのだ。
ミーナとスライムは、顔を見合わせて首を傾げる。スライムは嬉しそうににこにこしていた。
ミーナは愛らしい彼の姿に笑みがこぼれるものの、番というものがさっぱりわからない。そこまで強烈に、恋だの愛だのといった気持ちなのかと問われれば、そうではないので戸惑うばかり。
「人間には番はいないはずだよ。数百年前の人間の青年は、妻を3人も娶ったし。同時に何人も愛せるなんて、番がいる種族ではあり得ない。スライムも、そもそも単体で増殖するからペアがいるなんて聞いたことないし。どうなってるんだ?」
アハトのその言葉に、スライムはきゅうっと悲しそうに眉尻を下げた。その姿に、ミーナは、ぎゅうっと胸をわしづかみにされたかのように自分までつらさを覚えて、彼の手を握る。
「番とか、どうなのかなんて関係ないわ。スライム君は、私のそばにいるの。いてくれるよね?」
「きゅ」
「ミーナちゃんの言う通りだね。あれこれごちゃごちゃ言うなんてナンセンスってやつだ。ミーナちゃんとスライム君が仲良く過ごすことが一番。そろそろ準備も出来ただろうからダイニングに行こう」
「そうね。父さまも母さまも席についているかもしれないわ」
自らの気持ちこそ、よくわからないものだ。ここであーでもない、こーでもないと言い合っても仕方がない。四人は並んでダイニングに向かった。
「まあまあまあ。ミーナちゃん、久しぶりね。大きくなって」
「ミーナは相変わらずちっこいな。ちゃんと食ってるのか?」
「おじさま、おばさま、お久しぶりです。おふたりともお元気そうでなによりです。ふふ、最後にお会いしてから2センチ身長が伸びました」
ミーナの姿を見た瞬間、ダイニングテーブルの席に腰を下ろしていたルーシーの母が、ミーナに飛びついてきた。ミーナよりもふたまわりほど大きな彼女に、まるで幼児のように腋に手をいれられ、「高い高い」され、ぐるぐる回される。
「ちょっと、母さま、ミーナの目が回ってる!」
「あ、あら? あらあらまあまあ。ミーナちゃん、ごめんなさいね?」
「いえ、大丈夫でふ」
そうっと、壊れ物のように床におろされたミーナの足がふらつく。ミーナは、少し目が回っているため、体幹のバランスが取れないようだ。あわててスライムが彼女を支えた。
ミーナをこんな目に合わせて許さないとばかりに、スライムがルーシーの母をにらみつける。
「ぎゅ……」
「まああまあ。こっちの子は? はじめまして、かわいらしいわねぇ。あなたも高い高いしてあげましょうか」
「きゅ⁉」
ルーシーの母は、スライムの愛くるしさに彼の表情をまるっとスルーして、ミーナと同じようにぐるぐる回した。
人間であるミーナに対しては、あれでも優しく優しく扱っていた。ミーナ以外のものに遠慮する必要はないと、ドラゴンママのフルパワーにスライムが振り回されているのを見て、なすすべもなくミーナは両手を合わせた。
「あー……。スライム君、ご愁傷様」
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