12

 ルーシーの家は、ミーナの家から50キロほど離れた山の中腹にある。そのあたり一帯の山脈すべてを、ルーシーの家が統括し、様々な種類のドラゴンたちが住んでいる。

 ドラゴンは、番という魂で結ばれている相手がいる。個体すべてが、その番に会えるとは限らないうえに、妊娠出産しづらいため数が徐々に減少している。

 ひとつの山に、ドラゴンの姿でもひと家族が十分住めるような大きな家が1から2軒建っており、その数はとても少ない。山の三分の一ほどの大きい家のため、山というよりも、もうその山自体がドラゴンの家といえる。


 その中でも一際大きく険しい雪山の中に、巨大な氷で覆われた城がある。それこそがルーシーの家であり、彼女の家族がそこで過ごしている。

 基本的にドラゴンたちに認められない者は、テリトリーを侵されることを嫌う彼らに攻撃される。うっかりドラゴンたちの領域に入ろうものなら、種々のドラゴンブレスなどの攻撃に全方位から攻撃されてしまう。この世界の獣人たちはちょっとしたケガくらいで済むが、ミーナの場合は、瞬く間に消し炭になるだろう。

 このような場所に、ミーナが単身これるはずはない。アイテムを使えば、高度の高い寒冷地にはたどり着くことはできるが、ルーシーに連れてきてもらえば問題はない。


「ミーナ、着いたわよ」

「え、もう? 相変わらず速いのねぇ。スライム君、降りるよ」

「きゅん」


 ミーナがカプセルから降りると、カプセルは小指サイズのペンダントトップに変わった。ルーシーが人化すると、スライム君がほっとしたのか、人化しようとふるふるぷるぷる震えだす。


「わー、スライム君、待って、待ってー。ここじゃダメー」

「きゅ?」

「かわいい……じゃなくて、こんな玄関先で人化するのはマナー違反なのよ。それに、ルーシーと違って、人化と同時に服を着るなんてことできないでしょう?」

「きゅ」


 スライムは、それがどうしていけないのかさっぱりわからないという風に首を傾けたものの、ミーナがそういうのならと人化するのをやめた。


 スライムが、ミーナのことをどう思っているのか不明だが、今のところは好かれているようだ。ミーナの胸に抱かれながら、ぷるぷるすりすり甘えっぱなしなので、ルーシーがミーナを取られたように感じて、少々やきもちを焼くほど。


「スライム君、ミーナは私の親友なんだけど。さっきからミーナをひとりじめしすぎ。ちょっと離れてよ」

「きゅ」


 ルーシーが嫉妬心丸出しで、スライムをつんつん指でつつく。すると、スライムは「ミーナは僕のものだからやなこった」と言わんばかりに、さらにミーナの胸の中に埋もれようとくっついた。


「ルーシーったら。ふふふ、親友以上だと思っているわよ。ルーシーの事もだけどさ、スライム君も大事なんだ。私が育てたうちの子。だから、ルーシーもそんな風に言わないで。ね?」

「わ、わかったわよ。スライム君、意地悪言ってごめんね」

「きゅ」


 ふたりが喧嘩を始めるかとひやひやしたものの、喧嘩するほどなんとやら。ミーナは、ふたりが仲良さそうに対峙しているのを見てほっとした。


「ふふ、仲直りね。ね、ルーシー。おじさまとおばさまは今日もいないの?」

「ううん、この間仕事から帰ってきたからここにいるわ。兄さまもね」

「本当? わぁ、久しぶり。何か月ぶりかしら。楽しみ」

「ふふ、父さまたちも喜ぶと思うわ。とりあえず、ミーナの部屋に行きましょうか。スライム君の服は、そうね、兄さまのお古を持ってきてもらいましょう」


 ふたりと一匹は、仲良く話をしながら、大きな玄関から1キロほどにある、ミーナがこの家に来る際に寝泊まりしている部屋にたどり着いたのだった。


 




 

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