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「きゃあ! なになになにー、なんなの、それぇ!」


 スライムの変化に驚いたルーシーは、顔を若干青ざめて指をびしっとさし悲鳴を上げる。そういえば、彼女はぬめっとしたものや、ねばっとしたものが苦手だったと思いだす。スライムの姿にパニックになって、ついうっかり思わず攻撃を再開されてはたまらない。


「ルーシー、この子は飛び掛かったりしないから。大丈夫だから落ち着いて。ほら、少し前に保護したスライムだよ。覚えているでしょ?」

「課外授業の魔の森スタンプラリーの時に拾った、スライムかもしれない大発見だって大喜びでビンに入れて持って帰った瀕死状態だったアレ? ミーナの頭脳と技術なら、ひとしずくしか残っていないアレを復活させて、絶滅危惧のスライムの繁殖に貢献できるかもって国から保護と治療をまかせて貰ってたやつ?」

「そう、それ。あの子が元気になったみたい。で、自我があるっぽいから、スライム君って勝手に呼んでる。といっても、私もついさっき、スライム君が動いているのを発見したばかりなんだけど。その時に、びっくりして悲鳴をあげただけなんだ」

「きゅい」

「そうだったんだ……。はぁ、びっくりした。私もいきなり入って来ちゃってごめんね。スライム君、初めまして。私はルーシーっていうの。よろしくね」

「きゅきゅきゅきゅきゅ」


 私から、帰ってから今に至るまでの説明を聞いたルーシーは落ち着き、スライムと挨拶を交わす。ルーシーは、やっぱり苦手意識からは、口角がひきつっていた。

 もしも、スライムに手があったら握手しなければならない。彼が単なる球体で言葉の挨拶だけで済んで助かったと思っているのがありありとわかった。こればかりは、生理的に受け付けないから仕方がない。スライムの表情や気持ちはわからないが、ルーシーがあまり近づきたくないと思っているのを察してか、適度に距離を置いている。

 私はというと、まるで「よろしくね」と、素直に言葉を返したような彼が可愛くて微笑ましくて、胸に抱きあげてヨシヨシ撫でた。


「スライムって、こんな風に声だしたっけ? そもそも、性別なんてあったかしら。ミーナも呼んでいるし、私もスライム君って呼ばせてもらっていい?」

「きゅい」

「うーん、たしか性別はなかったって文献には書いていたと思う。でも、一瞬見た顔が男の子のものだったから、スライム君って呼んじゃった。男の子、でいいのかなあ? 会話が出来たらいいんだけど」

「きゅ」


 私とルーシーが、スライムを見ていると、彼の姿がぶにょぶにょ変形した。それは、ルーシーがドラゴンに変化する時のように、あっという間に人の姿を形成する。

 変化を始めた時に、ひょっとしたら、また生首状態かと戦々恐々と身構える。だが、それは頭の天辺から足の先まできちんとした人間だった。


「良かった……。首だけじゃなくて、本当に、良かった……」


 ぽつりとつぶやいた声とともに、私の隣で私より少し背の低い15才くらいの男の子の姿になった。彼の目の前が、丁度私の胸のあたりだ。

 キラキラキューティクルが眩しい薄青色の髪に、アクアマリンのような煌めくつぶらな瞳。頬っぺたはぷるんと丸くて、つついたら弾けそうなほどキメが細かい。

 格好いい青年というよりも、可愛らしい年下男子のその姿は、私の理想そのもの。やや細めの体は、ほどよく筋肉があり硬そうで、スポーツをしている少年といったところか。


「きゅ……きゅ……」


 人間の姿になったばかりで、言語はまだ操れないらしい。私は、彼から目を逸らして、ルーシーは顔を真っ赤にしながら目を固く閉じた。


「とりあえず、服を着て~!」


 ふたり同時にそう叫び、全裸のスライム君にその辺にあった私の服を渡したのだった。

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