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彼女が住む国は、多種多様の種族が住み、30年ごとに王が変わる。ミーナが現れた時の王は、ヒポポタマス族の余命いくばくもなさそうな長老だ。
この世界の王は、多種多様の獣人が住む故に起こる、種族間のいざこざを仲介するという面倒臭い仕事を押し付けられるだけの役職なだけだ。報酬も、普通にビジネスをしていたほうが圧倒的に良い。だから、王になりたがる者はおらず、自治会やPTA会長みたいな役割の王冠と玉座を、互いに押し付け合っている。
余談ではあるが、今後300年の王の順番はすでに決められており、次の種族は、くじ引きで当たりという名の大外れを引いたドラゴンである。
ヒッポー王の任期はあと10年あった。威厳と優しさ、適度な厳しさを兼ね備えて人々の平和を守るヒッポー王の続投を望む声は大きい。だが、その10年ですら、彼の寿命ギリギリくらいなのではなかろうかと、世界中から心配されている。
実際のところ、彼は、毎朝の歯磨きやマウスウォッシュの後、歯をキラリと光らせ、魔法無しの肉体のみで遠泳をするほど元気いっぱいなのだが。
ヒッポー国王は、ミーナという火種は大きくなり制御できなくなるのではないかと危惧した。責任感の強い彼は、在任期間中だけでも、ミーナを王族の一員に向かえて保護しようとした。だが、嫁として迎え入れようにも、最年少の独身男性が40才のタママ王子のみ。
流石に、30才以上の年の離れたメタボ体型のおっさんと幼女との組み合わせは、この国の全ての種族の長たちのみならず、世界中から「ちょっと待った!」「ないわー」と大ブーイングをくらう。おっさんと幼女の結婚という歴史的犯罪行為は阻止されたのである。
ミーナを養女にして保護する案も出たが、10年では成人できない。では、どの種族が彼女の保護者になるのか、日夜議論が繰り広げられた。
ヒッポー王の任期が終わったあと、王の座に就く事になるのは、ドラゴンの一族だ。偶然か神の配慮か、それはルーシーの父である。
結局、ミーナが出現した場所もルーシーの家であった事もあり、神の思し召しだとルーシーの両親が彼女の保護権を獲得したというわけだ。
ミーナを直接護衛する人材については、彼女と年の近しい、仲良くなれる友達や兄弟姉妹のように信頼関係を築く事ができるほうがいいだろうと、同年代の少年少女たちによるトーナメント大会が開かれた。
希望者は数万にも及び、肉体と魔法の実力も賢さや抜きんでた者を選抜するため、厳しい予備試験が行われた。厳選に厳選を重ね、選ばれた50人で、世界中が注目する大会が開催されたバトルの数々は、今世紀における伝説級の夢とドラマとして語り継がれている。ルーシーもトーナメントに出場し、圧倒的強さで見事優勝した。
大人たちが、ミーナの気持ちを顧みず、自分たちの都合だけで話し合いをしていた頃、泣きじゃくる小さな彼女を一生懸命なぐさめていたのもルーシーだ。
「もう泣かないで。私はルーシーっていうの。ね、あなたのお名前は?」
「もろ、みいな」
「もろみえ? なに?」
「ちがうのー。もろみえじゃなくって。えーっと、えーっと。みいな(美来)だよ。うつくしいみらいになりますよーにって、パパとママがつけてくれたの」
「わかった、ミーナね。とってもすてきなお名前ね」
「うん」
ずっと側にいて夜も一緒に眠るうちに、ミーナはルーシーと姉妹のような大親友になったのである。
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