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「うわぁあああああああっ!」
ミーナの乙女らしからぬ、野太い悲鳴に驚いた悲鳴を聞いて、生首も悲鳴を上げた。瞬く間に、ドロリと愛らしい顔が崩れる。つぶらな瞳の愛らしい顔が、まるで死者が彷徨い歩くかのように悍ましく気持ちが悪い。
「ひ、ひぃ、ひっ……」
上手く呼吸が出来ず、ミーナは息苦しくなる。空気を吸おうとしても、胸がふくらまず、ひっひっと短く鋭い音が繰り返された。
ミーナの心が更に恐怖に染められていく中、お構いなしにそれは変形した姿を見て、ミーナは、すでに開き切った目を見開く。瞬きすら忘れていたそこは、ドライアイになっていて白目の部分が赤くなりつつあった。
ところが、顔が崩れ去った最終形態を見て、ミーナの胸の恐怖心が消えていったのである。
生首状態だった彼が変化し終えたその形状は、透明度の高い粘着性の強そうな物体で、この世界では絶滅したとされる種族だったからだ。
「え? は? 首だけお化けじゃなかったんだ……。それに、その姿は、まさか……」
恐怖がなくなっていくのと比例して、ミーナの体も頭も正常に働きだした。数瞬前に呼吸すら出来なかった事が嘘のように、その透明度の高いドロっとした粘液の塊に足を動かす。
ソレは、目がなさそうなので、ミーナの姿を見たのかどうかはわからない。だが、ミーナの動きを感じたのか、ソレは体全体をぷるんと震わせ、ゴミの中に隠れようとずるずる蠢くように動いた。
「あ、待って。えっと、あなたはひょっとして……」
怯えて警戒するハムスターに手を差し出すように、なるべく低くなるようにしゃがんでソレに優しく声をかける。ゆっくり手を伸ばすと、こちらを伺うように、ソレは隠れたゴミから少しだけ体を出した。
怯えるその姿に、冷静になりつつあるミーナの心がキシリと痛む。
「いきなり、大声だして驚かせてごめんね。あなた、私が保護していたコよね? さっきの顔だけの姿が、あんまりにも変わっていたから、わからなくてびっくりしただけなの。私は、ミーナ。数か月前に、あなたの体の欠片を保護してビンで治療していたの。私の事、わかる?」
そう言うと、ゴミの中からソレが姿を現す。ミーナの言葉を肯定するように、ふるふる体を揺らした。
「おいで」
ミーナが両手を伸ばすと、ソレは、ぷるんぷるん体全体を柔らかめの弾力あるボールのように弾ませて、彼女の胸に飛び込んできた。
「良かった。無事で。さっきは、あなたの事を不審者かと思ったの。あなたが入っていたビンが割れていたから、襲われたのかと思って心配したのよ? もう、治療薬の中から出ても大丈夫なの?」
ミーナの胸の谷間に、顔どころか体を埋めさせるようにして上下に動く。ミーナは、恐怖が大きかった分、安堵して長い溜息を吐いた。
彼女の胸の中で甘えているソレを抱きしめ、ひんやりした葛餅のような感触の肌を、慰めるように撫で続けるのであった。
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