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ミーナは、割れたビンをひとつ拾うごとに、悲しみに心が支配されていく。そんな中、右斜め向こう側の部屋の角の何かが動いた。
そこには、散乱してぐしゃぐしゃになった資料の他に、布が落ちている。その正体は、彼女が身に着けていたブラジャーだ。
視界の角に映るブラージャーは、ピンク色……鮮やかなピンク色で……いや、正直に白状するとすれば。かつては、それは鮮やかなピンク色であった。だが、今は色素が抜け落ちており、よく見るとピンクであったことが、うっすらとわかる程度になっている。
彼女の胸元を飾るFカップのカーブは、すでに形状を保つための硬さを全て失っており、ぺたりとだらしなく資料の山にへばりついている。肩のひもも、ゴムが寄れており、繊維がほつれて1ミリ~2ミリほど、そののびきったゴムがところどころはみ出しているようであった。後ろのホック部分に至っては、なんと、ホックを縫製している部分とブラのアンダーを支えるところの結合部付近のレースに大きく穴があいている。
それは、すでにブラジャーというにはおこがましく、万死に値する行為に等しい。要するに、完全なゴミくずと化していた。
上下セットで購入したはずのそれの、片割れである下のほうはどこにいったのだろうか、依然として行方がわからないまま、一年ほど経過している。
なぜ、下着が一年以上も行方不明なのか。それは、彼女が、掃除洗濯など、基本的に生きるために必要不可欠な最低限の家事をする事に興味がないからだ。
着る事が出来なくなれば、ゴミ箱に入れるだけだ。だが、家に帰れば、とある研究に没頭する彼女にはそれが出来ない。仕事から帰って脱いだ靴下を、その辺に放り散らかすがごとく、使命を果たさなくなったブラジャーを脱ぎ捨てたまま放置して、すっかり忘れていたのである。
カサリ
その可燃ごみの方から、ほんのわずかな紙くずの音がした。ミーナは、音がした部屋の角に顔を向け注視する。
すると、そこには、きれいな空色の柔らかそうな髪で、ほっぺたがふっくらとした愛らしい顔が、かつてブラジャーであったぼろ布の間に見えた。
その顔は、ヴィンテージを通りすぎた薄桃色のゴミを頭に乗っけたまま、ミーナを見ている。
視線がばっちり交差し、ふたりはしばし見つめ合った。
キュートでつぶらな瞳を持つその存在に、ミーナの胸がドキドキと高鳴る。彼女の体は完全に硬直し、まるで時が止まったかのよう。
お互いに視線を逸らすことが出来ないまま時が過ぎていく。彼の眼差しが、ミーナの交感神経を敏感に刺激し、身も心も興奮していくのがわかった。
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