「ないわぁー」はこっちのセリフ
伊崎夢玖
第1話
「好きです!付き合ってください」
「ごめんなさい」
予想通りの玉砕。
分かっていたことだった。
背だけは親譲りで一八〇センチを優に超えていて、俺の唯一の自慢できるところ。
それ以外は、どっちかというとポッチャリ体形だし、髪も天パでくるくるうねってるし、猫背だし、さっきの背の部分と足し引きしても、マイナスにしかならない……。
はっきり言って、いいとこなし。
けど、どうしても自分の気持ちを伝えたかった。
彼女、一ノ瀬花梨には。
入学式の日に一目惚れして、かれこれ三年の片思い。
来月は卒業式。
進学先は別々。
自由登校の現在、会えるのはあと数回。
なら、いつ告白する?――今でしょ!
ってことで、冒頭に戻る。
「じゃぁ、アタシもう行くね」
そう言って花梨は僕に背を向け、去っていった。
分かっていたこととはいえ、ダメージはデカい。
重めの溜息が出る。
そこへ傷口に塩を塗ることばが飛んできた。
「告ってきたの!?マジ!?」
「マジ、マジ」
「で、答えは?」
「お断りに決まってんじゃん」
「だよねー」
「よく考えてよ。アレと付き合える?」
「いや、無理。普通にないわぁー」
花梨とその友人たちの声が静かな廊下に響き渡る。
せめて陰口を言うなら、学校から出て喋ってくれ。
落ち込んでいた気持ちから沸々と怒りが込み上げてきた。
ギャフンと言わせてやりたい。
そこから僕――もとい、俺自身へのセルフプロデュースが始まった。
まずは、猫背を矯正する。
気を抜けば猫背になってしまうが、意識すれば何とかなる。
常に意識するように努めた。
次に、肉体改造。
食事を見直し、ジャンクフード、お菓子、ジュース系を全部やめた。
俺にとっての大好物。
これを俺から取り上げたら何も残らないと言っても過言ではないほどの大好物。
それを自ら封印した。
それだけ俺の覚悟は固かった。
そして、運動を始めた。
ウォーキングから始めて、体が慣れてきたらジョギングに切り替えた。
それを並行して、筋トレも行った。
運動不足のポッチャリマンには最初こそ辛かったが、慣れれば楽しくなっていた。
気付けば、セルフプロデュースから一年が経っていた。
ナルシストのように聞こえるかもしれないが、一年前と比べて、明らかにかっこよくなったと思う。
告白する側からされる側へ、街に出れば芸能事務所からスカウトをされるような日々。
まさか、こんな日々になるなんて思ってもみなかった。
そんなある日、帰宅中に声を掛けられた。
「あのぉ……」
聞き覚えのある声。
振り返れば、一年前のあの日、俺を振った花梨だった。
「えっと……いきなりでごめんなさい。今付き合ってる人っていますか?」
「いないですけど……」
「だったら、アタシと付き合ってくれませんか?」
とうとうやってきた、この瞬間。
俺は前から決めていたセリフを口にした。
「ごめん。君のことタイプじゃないから無理」
そう言って花梨に背を向け、今日の分の筋トレをするために足早に自宅へと向かうのだった。
「ないわぁー」はこっちのセリフ 伊崎夢玖 @mkmk_69
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