第100話 アイドルだった私、夢追い人は永遠に

 厳かな方の式典が終わり、舞台は屋外へと移る。

 私たちが許された時間は、短い。

 そして……


「俺にとっては、これが最後のステージになる」

 円陣を組んだとき、そう口にしたのはランスだった。

 彼がこの舞台を最後にシートルを抜けることは、皆に、事前に伝えられていた。


「みんなとは、考えられないほど沢山の思いを共有してきたと思う。俺は今、この舞台に立てて、幸せだ」


 ああ、もぅ、みんな泣き始めちゃったじゃないっ。

 メンバーの中でランスだけが、この公演を機に完全に抜けることになるのだ。ダリル伯爵の病気は進行性のものらしく、やっぱりすぐにでも家業を手伝いたい、っていうのがランスの思い。

 彼には、背負うものがあるのだ。


 思い起こせば、リベルターナの更衣室で顔を赤らめてたランス。

 「おもしれぇ女」って本当に言ったランス。

 私とアイリーンをずっと支えてくれてた、ランス……。


「最後は楽しく、派手に行こうぜ!」

「うんっ」

「はいっ」

「わかりましたっ」

 それぞれに返事をし、手を伸ばす。


「マーメイドテイル~!」

『ゲット、ウォーター!!』


 いつもの掛け声、いつもの笑顔。


 外で行われている婚約祝賀祭に参加できることになった私たち。

 周りにいるのは、集まった市民たちと、メンバーの家族たち……だけのはずだったのだけど。

 どういうわけかさっきまで王宮内で式典に参加してたお偉いさんやら王宮の方たちなんかが続々と詰め掛けてる。驚いたのは、今回の主役であるレイラ様と婚約者までいるってこと!

 え? 待って、あそこ、めちゃくちゃ近衛が集まってると思ったら国王とお妃がいませんこと!?

 なにそれ~!


「お姉様、とんでもないことになってません?」

 隣でアイリーンが頬を引き攣らせる。

「うん、なんていうか……すごい景色が見える」

 私が言うと、アルフレッドが、

「こうやってこれからも、どんどん新しい景色見ていこうぜ」

 と片目を瞑ってみせた。


 新しい景色──。


 ああ、そうだ……。

 かつて水城乃亜だった私。

 ひょんなことから、今はリーシャ・エイデルだけれど……でも、乃亜でもリーシャでも関係ない。国民的アイドルを目指していることには変わりがないんだ、私!

 転生したくらいじゃ変わらないわね。私はどこにいたって、私でしかない。新しい景色目指して、常に進む。私なりに、出来ることを探して。

 そして、それって最高だと思う!


 ドン、ドドドドンドンッ パッパーッ


 打楽器からの、管楽器。この世界にはないであろう、ロック調のリズムとメロディ。アップテンポなそれに合わせて、全員が舞台上を所狭しと踊りまくる。舞台を見る観客の目がキラキラと輝き出し、どんどん舞台へと近付いてくるのがわかる。


 よし、掴んだ!


「シンクロ、いっきま~す!」

 私は大きくジャンプし、叫んだ!


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


新学期ってさ いつも憂鬱

変化に耐えられない 私たち

繊細だなんて 言う気はないけど

ナーバスな心 隠しきれずに


隣の席で いつもはしゃいでた

君はまるで 少年みたいだ

くだらない話を いつでも

特別みたいに 思っていたんだ


シンクロしたいよ 君の心に

透明な壁なんかもう いらないんだよ

シンクロしたいよ 君の体に

混ざりあって溶け合って分かり合えたなら


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


 一番が終わるころには『きゃ~!』という黄色い声援が、あちこちから響き始める。老いも若きも関係なく、人が集まってくる。

 ふと見れば、お偉いさんたちまですぐそばまで寄ってきてる!

 あ、バーナム様も見に来てくれたんだね、やっほ~! 気のせいでなければ、一緒にやりたそうにすら見えるわ。ふふっ。


 迸る汗、見たこともないであろう激しいダンス。そして、歌!

 シートルの男らしいダンスに、輪をかけたアクロバティックなニーナが跳ぶ!

 ルルとイリスが間奏に美しいハーモニーを奏でれば、アイリーンとオーリンがそれに合わせてくるくるとターンを重ねる。


 みんなの成長に、胸が熱くなる。


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


季節が行くよ 光の矢みたい

追いかけるだけでもう 精一杯

サヨナラなんてさ 言う気はないけど

どこに向かって 歩いたらいい?


シンクロしたいよ 君の心に

離れ離れに いつかなっても

シンクロしたいよ 君の記憶に

同じ風景の中にいるんだ、今!


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


 ああ、ランス! 例え舞台を離れても、あなたとは義理の姉弟ってことになるのね。またいつか、可能性があるなら舞台であなたのダンスが見たいと思う。

 実はこのあと二人の婚約式を開催予定。メンバー全員とお互いの両親と、迎賓館貸し切って盛大にやろうってみんなで画策したのよ?

 二人の門出は、みんなも嬉しい! みんなからのおめでとうの嵐を浴びなさい!


 アイリーン、泣きながら踊ってる。うん、そうだよね、このメンバーで踏む最後の舞台、寂しいね。でもあなただってあと五年でランスの元に行っちゃうんじゃない!

 やだ、そんなこと考えたら私まで目頭が熱くなってきちゃうっ。

 アイリーン。

 私、あなたがいなかったらここまで来られなかったって思ってるの。あなたは最高のパートナーで、最高の妹だわ!


 ここでアッシュのソロ!

 透き通るヴァーラの調べ。どこまでも響く、美しい音色。

 みんなの気持ちは最高潮に!


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


「失恋」とは言うけど、

「失愛」とは言わないだろう?

きっと愛は失ったりしないんだ、なんて

君はまるで 少年みたいだ


シンクロしたいよ 君の心に

離れ離れに いつかなっても

シンクロしたいよ 君の記憶に

同じ風景の中にいたんだって きっと覚えていて


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


 曲は、クライマックスへ。


 舞台を見上げる観客の目ががキラキラしてる。

 舞台の上のメンバーも、これでもか、ってほど大暴れだ。


 ──私、大事なものはこの手に掴んで離さずにいれば、絶対になくならないんだって知ったわ。どこにいて、どんな立場になったとしても、諦めない限り、なくなったりはしないんだって!

 死ぬまでは生きなきゃなんだもん、夢を持って生きよう。なんでもいいの。

 どんなに無謀な夢でも、努力と、根性と、仲間と、諦めない心があれば叶うんだってこと、私が証明する!

 困難なことがあったら

『面白くなってきたじゃない』

 って口にするとね、本当に面白くなってきたりするもんなのよ?


 だから!


 ランスが笑う。アルフレッドと対になり、これでもか! ってほど弾けてる。

 それを横目に、果敢に攻めてるケインもすっごくうまくなったよね!

 一生懸命みんなについていこうとジャンプするオーリンを、客席からカンナが応援してる声が聞こえる。一番前に陣取ってずっと叫んでるんだもん。随分元気になったんだなぁ。よかった!

 ニーナのご家族は、また泣いてるね。泣きながら笑ってる。お店はお休みしたのかな? まさか娘が王都まで公演にくるなんて思ってなかったろうな。


 アッシュが私を見る。

 私もアッシュを見る。

 これからどんなことが起きるかわからない。それでもあなたはきっと、少し困った顔で笑いながら私の隣を歩んでくれるのでしょう?

 これから見える景色を、ここから先の未来を、あなたと一緒に追いかけていく。

 私、アッシュが好き。

 大好き!


 ああ、楽しい!

 みんな笑顔だ!


 私は、リーシャ。

 リーシャ・エイデル。


 国民的アイドルを目指して、今日も、歌う。

 水の中を自由に泳ぐ人魚みたいに、私は進むの!


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


シンクロしたいよ 君の心に

離れ離れに いつかなっても

シンクロしたいよ 君の記憶に

同じ風景の中にいたんだって きっと覚えていて


忘れないで

覚えていて


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。



 ──あなたにも、届け!






国民的アイドルを目指していた私にとって社交界でトップを取るなんてチョロすぎる件、完

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