第78話 アイドルだった私、出る杭の在処
「でさ、歌ってみたら、俺の歌声が素敵だって褒められちゃってさぁ」
デレ~っとした顔で話しているのは、ルナウ。あれから数日。練習が始まる時間より早く来て、私に歌のテストをしてくれって言うからホールに来たんだけど、何故か違う話で盛り上がっているのだ。
「正直、初めは人前で歌うって恥ずかしいんじゃないかって思ってたんだよ。だけどさ、いざ歌ってみたら最高に気持ちいいし、声が素敵だ、なんて褒められるの初めてでさぁ」
はいはい。あの
「そう、それはよかった。じゃ、早速歌ってみてくれる?」
そう促すのとほぼ同時に、ホールの扉が開かれる。
「おはようございます!」
元気よく姿を見せたのはルルとイリスである。あれ? 早くないか?
「二人とも、こんな早くにどうしたの?」
「今日、ルナウ様が歌の試験を受けられると聞いたので」
「様子を見に来てしまいました」
そう言って二人はルナウにカーテシーをする。ルナウはパッと頬を赤らめ、
「わざわざ来てくれたのかっ? 二人ともありがとう!」
そう言って手を伸ばし抱きつこうとするその首根っこを私が捕まえて引き戻すまでがワンセット。
「なんで邪魔をするんだ、リーシャ! ……ははぁん、それはいわゆる嫉妬ってやつか」
「違います! ルナウは女性に対しての言動も行動も軽すぎ! もう少し紳士的な態度で接しなさい!」
ピシャリと𠮟りつける。
「ちぇ。リーシャは俺に厳しすぎるぜ」
悪びれもせず、唇を尖らせるルナウにルルとイリスが笑った。
「じゃ、始めましょ」
私が言うと、ルナウの顔つきが変わる。『入り込む瞬間』の、舞台人のそれ。
いつの間にこんな顔するようになったんだろう、彼は。
そしてあろうことか、ルナウはステップを踏み始める。まさか、踊りながら歌う気?
*゜*・。.。・*゜*・。.。
まるで陽の光のように温かい その瞳の色
明日へ向かうゆるぎない一歩 踏み出した時
繋いだ手 伝わる体温
気持ちまで 伝えて快音
歌え!
どこまでも響くこの声 大切な人と未来へ
歌え!
下を向き歩いてたあの頃 二度と戻らないよう
*゜*・。.。・*゜*・。.。
これは新人用の曲『未来へ』だ!
すごいっ、ちゃんと振り付けまで完璧にこなして、しかも踊れてるじゃない!
「すごいじゃない、ルナウ!」
私は手を叩きながらルナウを褒める。私の隣で、ルルとイリスもキャーキャー言いながら手を叩いている。
まず、その顔面偏差値の高さよ!
思った通り、ルナウはべらぼうに『絵になる』外見をしている。金髪にブルーグレイの瞳ってだけでだいぶ盛られてるわけだけど、ちゃんと顔も整っているのだ。それが、歌って踊る、だと? 女性たちのハートを掴まないわけがない!
「ルナウ様、カッコいい!」
「ルナウ様、素敵です!」
ルルとイリスも大喜びである。
「はぁっ、はぁっ、でもっ、やっぱ、踊って歌う、は、息がっ切れるっ」
体をくの字に曲げ、息をするルナウ。そんな姿もなんだか色気たっぷりだ。これはこれで……いい。とても。
私はつい、悪い大人目線でルナウを見つめてしまった。
「いいわ、ルナウ。歌ってよし」
「……ほんとにっ? やったぁ!」
無邪気に喜ぶルナウの姿は、なんだか可愛くさえ見える。この子……人気を掻っ攫うわよ。どうしよう。
私、少し不安になってきた。
グループっていうのは、バランスが大切なのだ。色々なタイプがいて構わないし、そうあるべきではある。が、一人だけが極端に飛び抜けていると、バランスが崩れてしまう。その一人がどんなに良くても、いや、良すぎて全体的に見た時に邪魔になるのだ。
そういう意味では、今のシートルはバランスが良かった。大人っぽさで見せるランスに、正統派のアルフレッド、弟分的なケイン。
しかしここにルナウが入ったら……。
邪魔だ。
いっそソロで出してしまおうか?
しかし、それには何かが足りない。ルナウは確かに目を引くけど、独りで歌って踊ったところで、そこまでの輝きを出すことができるとは、まだ思えない。
ルルとイリスをコーラスに付けて……?
想像してみたものの、それも噛み合わない気がする。
「ん~」
考え込む私に、ルルとイリスが声を掛ける。
「リーシャ様?」
「どうかしたのですか?」
「二人とも、今のルナウ、どうだった?」
訊ねると、興奮したように、
「とっても素敵です!」
「キラキラしてました!」
と、声を上げる。
「シートルの中にルナウを入れたらどうなると思う?」
質問を変える。と、二人はしばらく考えた後、
「キラキラが、増える?」
「ルナウ様、目立ちそう」
「それよ!」
私、ルルを指し、言った。
「目立ちそうなの」
「俺が目立っちゃダメなのかよぉ?」
ルナウがまた口を尖らせる。
「駄目なわけじゃないんだけど……」
腕を組んで頭を悩ませていると、続々とメンバーが集まってくる。
「お、早いな」
「おはよう」
ダリル家の二人。
「おはようございます、皆さん。今日はニーナとオーリンが午後からになるそうですよ」
ケイン。
「おはようございます、リーシャ様」
アッシュ。
「もう、みんな揃ってますの?」
アイリーン。
そしてその中の一人の顔を見て、私は、閃いたのだ。
うん、このやり方なら、面白いかもしれないっ!
ただ……やってくれるかなぁ?
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