第77話 アイドルだった私、今頃不安になってきた
「うん、なかなかいいじゃない」
しばらくシートルに預けていたルナウの出来を確認した。
末端とはいえ王族ってこともあって、多分教育は厳しかったのだろうと思う。つまり、集中力と根性ってことで言えば、我々の中でもダントツなのではないだろうか?
私ほどではないとはいえ、ランスだってアルフレッドだって、それなりに熱い思いで指導してくれているはずだし、ケインに至っては、後から来た奴に抜かれてたまるかと躍起になったに違いない。結果的に、相乗効果でこれだけ伸びたのかもしれない。
「本当にっ?」
聞き返してくるルナウに、私は大きく頷いた。
「やった! ランス、アル、ケインありがとなぁぁ!」
飛びついて喜びを表現する。
「ちょ、やめてくださいよっ」
抱きつかれたケインがルナウを押しのける。
「そんな寂しいこと言うなよぉ、ケイン~」
ダル絡み、というやつだ。しかし、そんな二人を見てランスとアルフレッドは楽しそうである。
「なぁ、リーシャ、俺、歌も頑張るからさっ、歌ってもいいだろ? な?」
おねだりをされる。
「歌かぁ。とりあえず聞いてから決める」
ダンスだけだって大変なのだ。歌いながら踊る、というのは更に大変。
「よし! じゃ、これから歌の特訓だ!」
キョロキョロ辺りを見渡し、一点に視線を留める。
「ルル! イリス! 練習付き合ってくれないかっ?」
そう言って、走り出す。
「……あんなキャラだっけ?」
私は遠ざかるルナウの背を指し、ランスに訊ねる。
「まだこっちに来て六日とは思えないよなぁ。最初のイメージから大分変わったよ」
ランスが肩をすくめる。
「本当に。俺たちのしごきにも文句ひとつ言わないしさぁ、なにより楽しそうなんだよな、あいつ」
アルフレッドもそう続ける。
「俺なんか、もうマブダチ扱いだぜ?」
確かに、アル、なんて呼ばれちゃってるし。
「僕は迷惑してますけどね」
ケインが頬を膨らませた。
「あはは、ケインのことは弟かなんかだと思ってるよな、あいつ!」
「そうそうっ、可愛がってる!」
ランスとアルフレッドが笑った。
「可愛がってるっ? あれがっ?」
ケインが目を見開き、ルナウを指さす。
そんなルナウは、ルルとイリスを捕まえて発声練習など始めていた。聞こえてくる声は、なかなかの美声である。
「ここからはしばらくあの二人に託すか!」
アルフレッドが、そう言って腕を組んだ。
「そうね。じゃ、ちょっと私、席外すわね」
「どこ行くんだ?」
アルフレッドに聞かれ、
「アイリーンと衣装の打ち合わせ」
と答える。
「了解。こっちは任せろ」
ランスに言われ、頷いた。
「アイリーン、ちょっといい?」
ニーナとオーリンの指導をしてくれているアイリーンに声を掛ける。
「大丈夫ですわ。じゃ、二人とも今日はここまでにしましょう」
「はい!」
「ありがとうございましたっ」
ニーナは相変わらず抜群のキレで踊る。オーリンは少しずつ、みんなに追いつき始めた。もちろん、司会の腕は誰にも負けない。
こうして見ると、みんな個性があっていいなぁ。実は私が一番無個性かもしれず……。
「お姉様?」
ぼーっとしている私にアイリーンが声を掛ける。
「あ、うん、ちょっと場所変えようか」
広間を出て、応接室へ。
今回は王都での公演。しかもルナウが連れてきたあの変なデザイナーがやる気満々なので、私のデザインを彼が形にする、という共同作業になる。彼の名は既に王都では有名だから、コラボしたことで私の名前も世に出られるかもしれず。そうなると、タリアの王都進出も夢ではなくなってくるかもなぁ。
「これとこれ、あと、この辺のデザインがいいかと思って」
ざっと描いただけの画を見せる。しかし相変わらず私の画は下手である。これをアイリーンが綺麗に描き直してくれるのだ。デザイン画をきっちり描いてくれるアイリーン、もはや、神だわ!
「わかりました。では描いてみますね」
「ありがとう」
「構いませんわ。それよりお姉様」
「ん?」
「王都での公演ですが……」
と、そこまで言って、口籠る。
「どうかしたの? 心配事?」
「……ええ、少し」
いつも強気なアイリーンにしては珍しい反応だった。この前の強盗のこと、まだ怖いのかな?
「やはり王都進出は不可欠なのでしょうか」
あれ? 違うな。
「えっと、アイリーンは、反対だった?」
なんとなくみんな賛成してくれてるつもりでいたけど、実はそうじゃなかったのかも。
「……いえ、反対というわけではないのです。ただ、王都はあまりにも大きくて、なんというか……規模がどんどん膨らんでいくことで、なんだか自分が自分じゃなくなっていきそうで怖くなってきました」
あああ、この子本当に芸能界に向いてるんだわっ。その感覚、とても大事なのよ!
私はアイリーンの肩をガシッと掴んで、
「アイリーンのその気持ち、正しい!」
と言い切る。
「え?」
「成功が続いて、トントン拍子で話が進んでいるときに、現状を冷静に見る目を持ってるって素晴らしいことよ!」
「そう……ですの?」
キョトン、としているアイリーンに、私は続ける。
「ちゃんと考えましょう。私たちはこの先、王都でも活動をすべきなのか。それともまだ時期尚早で、突っ走るべきではないのか。うん、私もちゃんと考える」
「王都で活動することになれば、ここを出なければいけなくなるかもしれませんものね」
「そうだね」
「今のメンバーで、それが可能なのは半数ではないかと思って……」
……ん?
「半数?」
「長男であるランス様、アッシュ、そしてヴェスタ子爵家のメイドであるオーリン。この三名は無理なのではないかと」
……そうか、私、そこまで考えてなかった。確かに王都での活動がメインになったら、全員での活動は難しくなるかもしれない。
「マクラーン公爵様がどうお考えかわかりませんが、私はもう少し、このまま……今のメンバーで活動が出来たらと願ってしまうのです」
アイリーンが胸に手を当て、目を閉じた。
そんな姿を見ていたら、なんだか私も王都行きが不安に思えてしまったのだった。
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