第58話 アイドルだった私、ファッションショー大成功!

 淑女の皆さんが舞台を降りると、今度はマーメイドテイル新人メンバーによるダンスが始まる。なんといっても男装のままセンターで踊る、ニーナのキレッキレのダンスが最高にかっこいい! 途中、タイマンを張るみたいに、ケインと交互にソロダンスを踊る。ニーナには敵わないまでも、必死で踊るケイン。二人が交互に踊るたび、湧き上がる、歓声。


 オーリン、ルル、イリスがそんな二人を盛り立てる。

 やがて音楽が曲調を変えた。新人メンバーによる新曲披露だ。


「私たちの歌、聞いてください! 曲は『未来へ!』です!」


 オーリンがそう叫んだ。ルルとイリスはコーラスに戻り、ニーナを中心に、オーリンとケインが踊り、歌う。フレッシュなメンバーにぴったりの曲なの!


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


まるで陽の光のように温かい その瞳の色

明日へ向かうゆるぎない一歩 踏み出した時

繋いだ手 伝わる体温

気持ちまで 伝えて快音


歌え!

どこまでも響くこの声 大切な人と未来へ

歌え!

下を向き歩いてたあの頃 二度と戻らないよう


こんな気持ちになるなんて

俯いていたら気付かないまま

暗闇の中で過ごしていた

光の扉 今 開け放ち


踊れ!

僅かでもこの気持ちを乗せて 思いを届ける

踊れ!

体全部で表現するんだ この歌声と共に


明日じゃない

今、ここで

目の前の

あなたに贈るよ


歌え!

どこまでも響くこの声 大切なと未来へ

歌え!

下を向き歩いてたあの頃 二度と戻らないよう


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


 ワァァァァ! と会場が熱気を帯び手拍子が自然に沸き起こる。「歌え!」のところで三人が右手を突き上げる振りがあるんだけど、もう、二番からは会場の半数が同じように右手を突き上げていた。これ普通にコンサートじゃない? すごくない?

 全部、アッシュの手柄だわ。歌の力、恐るべし。あっちの世界でも充分音楽で食べていけるわよ、アッシュ……。


 鳴り止まない拍手。

 このまま一気に畳みかける!


 会場の熱はどんどん高まり、私も弾け、飛び、歌い、今日も大満足のステージとなったのである。


*****


「本当に、ありがとうございました!」

 私が頭を下げると、義母シャルナとその一行が満面の笑みで私を見た。


「とぉんでもない!」

「本当に、楽しかったわぁ」

「お誘い、本当にありがとうね、リーシャちゃん!」

 次々にお言葉を頂戴し、更には

「いい舞台だったわ」

 と、シャルナが私に笑いかけた。


 シャルナが!!

 あの、義母がですよ!


 もちろん、舞台でハイになってるしご友人たちの手前もあるんだろうけど、私、テンション爆上がり!


「お義母様に手伝っていただかなかったら、こんなに素敵な舞台にはなりませんでした。本当に、感謝してます!」

 うん、これは心からの賛辞。


「では、私たちは先に帰るから」

「はい。あとでアイリーンと一緒に戻ります」

 そう言って、馬車を見送る。


「あ、お姉様!」

 アイリーンが屋敷からこちらに来る。

「お義母様たち、帰ったわよ」

「ええ、それは。そんなことより、タルマン公爵がお呼びですわ」

「え? 私?」

 あとで挨拶には伺うつもりだったけど……なんだろう?

「わかった。行ってくるわね!」


 私は急いで屋敷に戻る。

 女中の一人に案内され、タルマン公爵家の待つ応接室へ向かった。


「失礼します、リーシャです……が、」

 扉の向こうにいたのは、タルマン公爵夫妻と公爵未亡人ミズーリ。そして……、

「よぉ!」

 かるぅい感じで片手を挙げている、パツキン野郎だ。

 私は彼をいないものとして、タルマン公爵にカーテシーをする。


「本日はこのような機会をいただき、誠に感謝しております。お楽しみいただけましたでしょうか?」

 にっこり笑うと、ミズーリが口火を切った。

「そりゃもう! あんなにワクワクしたのは一体いつぶりかしらっ。とても素敵な舞台だったわ! それに、リベルターナの新作ドレスも素敵でした。是非、購入させていただくわねっ」

「ありがとうございます。タリアも喜ぶと思いますわ」


「母上、よろしいですかっ?」

 会話に割って入ってきたのは公爵。

「あら、無粋ね」

 ミズーリが口をすぼめる。


「リーシャ嬢、先程は失礼した。今日の舞台、本当に素晴らしかった」

 素直にそう言われ、驚く。まぁ、舞台を見ている時のあの顔を見たらわかったけど。

「いえ、そんな」

「ところで、だ」

 タルマン公爵がチラ、と横を見た。例のいけ好かない男のことを見たのだ。

「こちら、」

「あ~!」

 タルマン公爵の言葉を遮って、私。


「大変申し訳ありませんが、ご紹介いただかなくて結構ですわ。すみませんが、この方と関わり合いになるつもりはありませんので」

 にっこり、微笑む。


「なっ、」

 男がムッとした顔で私を睨む。

「リーシャ嬢! 彼はっ、」


「おほほほ!」

 ミズーリが笑い出す。全員があっけにとられた。


「愉快だわ! まさか紹介を拒むだなんて。残念だったわね、ルナウ。リーシャ嬢は想像以上に手強そう」

 心底楽しそうに、笑う。

「いいのよ、リーシャ。問題ないわ。お行きなさい」

「ありがとうございます、ミズーリ様」

 私は頭を下げ、部屋を後にした。中で何か揉めてる声がするけど、それは聞かないことにする。厄介事はごめんだわ。


 急ぎ足でホールへ。

 中は大分片付いて、タリアがメンバーにお礼を述べているところだった。


「あ、リーシャ様!」

 タリアが私に気付き、走り寄る。

「素晴らしかったわ! 今、皆様にもそう言っていたのよ! もう、舞台が終わってからすぐに注文が殺到したのっ。ああ、忙しくなるわっ。これで王都への道も夢じゃなくなるかもっ」

 目をキラキラさせ、そう述べるタリアに、


「へぇ、王都に店をって考えてるのか」


 後ろから、声。


「あっ、あなたっ」

 いつの間にか、パツキンが後ろに立っていた。


「王都に店、出してやろうか? 俺が」

「はぁ?」

 急に何を言い出すんだ、この男。


「ただし、あんたが俺との婚約を快諾すれば、の話だがな」

 そう言ってニヤリと、笑う。

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