第57話 アイドルだった私、淑女の皆様の出番

「会場にお集まりの皆様、本日はお越しいただきありがとうございますっ! どうぞ最後まで、楽しんでいってくださいねぇ!」


 オーリンの司会で幕を開ける。

 まず、シンクロでぶち上げて、会場を沸かせる。そのあとシートルのダンス。なんと、ケインもこの中に入ってバッチリ踊りを披露していた。上手くなったなぁ。


 そしてここから、初の試みに移る。


「さて、本日お集りの皆様に向け、ここからはリベルターナの新作をご紹介させていただきますっ!」


 会場がざわつく。

 貴族のご婦人たちがブティックでドレスを買う場合、店に足を運ぶパターンと、外商のように屋敷に呼ぶパターンがある。しかし今回は違う。まさにこれは……、


 舞台には、いつもは存在しない『花道』を用意した。これから行うこと。そう、それは、

「ブティック『リベルターナ』の新作コレクションを、お楽しみください!」

 音楽が鳴る。アッシュが書いてくれた曲そのイチ。シートルの新曲にして、デビュー曲。


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo


さぁいこう! 今日は定められた出発の日

恐れずに向かう 己の心だけ携え

さぁいこう! 今日は運命が動き出す最初の日

不安など捨てて 己の力だけ信じて


新しい景色 新しい出会い

何もかも知らない事ばかりの旅路だ

新しい仲間 新しい自分

行く先の地図などどこにもない旅路だ


踵を鳴らせば 見たこともなかった世界の光

顔を上げてほら 木漏れ日の中を進めばいい


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


 サビから始まるこの曲は、最初から飛ばしまくりのめちゃくちゃイケてる曲! それに合わせ、シートルの三人が花道を踊る。花道の横に座っているご婦人たちが色めき立つ。今日のお客様のほとんどが、私たちの舞台を初めて見るのだ。スタートからずっと前のめりに興奮しているのはわかっていた。が、ここに来てその興奮を内に留めておけなくなってきているのか、あちこちから黄色い声が聞こえ始める。


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


さぁいこう! 今日は待ちに待った出発の日

はやる気持ち抱いて 己の姿見つめ直し

さぁいこう! 今日は歴史を作る分岐点になる日

荷物は最小限に 己の宝箱抱いて


さぁいこう! 今日は定められた出発の日

恐れずに向かう 己の心だけ携え

さぁいこう! 今日は運命が動き出す最初の日

不安など捨てて 己の力だけ信じて


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


「きゃ~!」

「素敵ですわーっ!」


 若い子だけでなく、そこそこ年配のご婦人も大興奮で椅子から立ち上がっていた。ご夫婦で来ている人もそれなりにいるのだけど、大丈夫かなぁ?


 視線を向ける。公爵未亡人のミズーリは、立ち上がって手を叩いている。楽しそうで何よりだわ。……と思ったら、

「タルマン公爵っ」

 思わず私、吹き出してしまう。あんなにつっけんどんな態度を取ってたくせに、何よ、一緒になって立ち上がって手叩いてるじゃないのっ。あはは、お気に召してくれたのかしらね?


 ジャン!


 曲が終わり、三人がそれぞれポーズを決めると盛大な拍手が上がった。黄色い声が止むことはなく、三人は何度もお辞儀をする。そして音楽は次の曲を奏で始める。ランスとアルフレッドがその場を去り、ケインだけが残る。そこにルルとイリスが加わり、三人は花道を順番に、一人ずつ歩く。


 そう。これはファッションショーである。花道……ランウェイをまっすぐ歩き、ターンして、戻る。


「先頭を歩きますはケイン・マクラーン。舞踏会でも映えるであろう白のタキシードは、細身でありながらダンスの際も動きやすい素材を使用。更に、見えないお洒落にもこだわり、裏地にカラフルなサテン生地をあしらった一品」


 オーリンの説明に合わせて、ケインが上着を開いて見せるとカラフルな裏地がチラ見えし、会場から『おおお』という声が漏れる。


「続きましてルル・ヴェスタが着用しているドレスはふわりと広がるラインが美しい、一見シンプルな普段使いのドレスに見えます。しかし、後ろで結んだリボンを解くと、」

 ルルがシュルリ、とリボンを解いた。腰で括られていたオーガンジーの布がふわりと広がり、シンプルなイメージを一掃した、華やかなドレスへと印象を変える。

「まぁぁ~!」

「可愛い!」

「素敵っ」

 ランウェイをターンするルル。ふわりと広がるドレスに、皆がうっとりと、見惚れる。


「次に参りますイリス・ザックのドレスは左右の長さを変えたアシンメトリーとなっており、歩くたびに踊っているかのようなシルエットが特徴的です!」

 イリスがランウェイを優雅に歩く。

 三人がランウェイを引き返し、舞台に戻る。と、曲調が変わり、ワルツのリズムに。


「さぁ、ここからは今回のゲスト。伯爵夫人たちにご協力いただき、大人の魅力たっぷりの新作をご紹介!」


 オーリンの声に合わせ、義母シャルナとその友人たちが新作のドレスを纏い登場する。会場から『ほぅ、』という溜息が漏れた。

 奥方たちが着ているドレスは、完全新作となる。私、これを作ってみたかったんだ。マーメイドドレス! タイトなシルエットに、裾だけが人魚の尻尾みたいに広がっているドレス。全体的にスタイルよく見えるし、なにしろ私たち、マーメイドテイルだし?


「まぁぁ」

「素敵……、」


 会場からの声も悪くない!


 ご婦人たちがランウェイを歩く。この日のために猛練習してくれてたみたいで、歩き方も、堂に入ったもの! ひとりひとり、素材や色、レースの感じも違ってて、この辺のアレンジはシャルナの案。体系も身長も違う淑女の皆さんにめちゃくちゃ似合ってる!


 ワルツのリズムに合わせ、軽やかに歩く。ランウェイに並ぶと、そこで止まる。そこに出てきたのはシートルの三人と、男装したニーナ。シャルナたちの元へ向かいペアを組むと、優雅に社交ダンスが始まる。ランウェイは狭いから、その場で簡単なステップを踏み、回るだけなんだけど、マーメイドタイプのドレスは見た目より踊れるのだ!


 さすが淑女の皆さま! 優雅で、美しい!

 そして、気のせいでなければ、若い子と踊ってほんのり頬が染まっております!


 うん、最高だ!


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