第49話 アイドルだった私、次の目論見を話す

 ニーナは家族と、オーリンはカンナ御一行と共に帰っていった。迎えが来たルルとイリスも、ご家族と合流していた。私は少しだけ、挨拶をしたけれど、ヴェスタ子爵もザック子爵もいい人そうだった。


 いいなぁ、家族って……。


 ふいに、母の面影が頭を過る。


 でもさ、仕方ないじゃない? 私がどう思おうが、元の世界に戻る方法なんてわからないし、そもそも……乃亜は生きていない可能性の方が高いもの。


「では、リーシャ」

 名を呼ばれ、顔を上げる。

「あ、はいっ。マクラーン公爵、今日はありがとうございました!」

 メンバー全員で公爵を見送る。ケインは何故か一緒に帰らず。

「なんで一緒に帰らないんだよ、ケイン」

 アルフレッドに聞かれ、

「僕はこのあと、個人レッスンをするので」

 と胸を張る。

「えっ? これから?」

 さすがの私も、ステージ終えた後でまた練習ってキツい、なんて思ったら、ケインがパッと手を挙げる。


「問題ありません。誰をも付き合わせたりはしませんので」

 などと申しており。


「ねぇ、ケイン。はやる気持ちはわかるけど、焦って練習重ねても急に上手くはならないわ。今日はおうちに帰って、ご家族にきちんと評価をしてもらいなさい」

「……評価?」

「そうよ。お父様やお母様だって観客でしょ? あなたのどこが素晴らしかったか、何が足りないかをきちんと聞くの。それってとても大切なことよ?」

「それは……、」

 俯くケインに、ランスも声を掛ける。

「だな。マクラーン公爵は俺たちの後ろ盾でもあるわけだし、今日の公演の感想を詳しく聞いて、公爵の本音を俺たちに報告してもらえると助かるよなぁ」

 チラッとケインを見て、そう言った。


 うまいっ。


 ……でも、それも一理あるわね。マクラーン公爵の率直な感想とか、この先をどう考えてるかとか、本音を聞き出すのってケインなら出来そうだもん。


「なるほど……本音。それは確かに、僕にしかできない事ですね」

 ケインがその気になる。

「わかりました。では僕は家に帰って自分自身の評価、それに父の本音を探ってまいります! 皆様、お先に失礼します」

 ペコリ、と頭を下げる。

「あ、うん。お疲れ様!」

「では、アイリーン嬢。今日も素敵でした」

 ケインがアイリーンにウインクをし、店を後にした。


「……あいつ、若いくせにやること男前だよなぁ」

 アルフレッドが頭を掻く。

「男前っていうか……キザ?」

「ですわねぇ……」

 そんなこんなで、新人は全員、帰っていったのである。

「で、俺たちも帰る?」

 ランスに聞かれ、


「えっと、ランスはアイリーンをうちまで送って行ってくれないかな?」

「え? なんで?」

「えっ? お姉様?」

「私、ちょっとアルフレッドに話があって」

 チラ、とアルフレッドを見上げる。『わかってるでしょ?』と目で訴えると、気付いてくれたのか、

「あ、そうそう。ちょっと話あるって言われてて」

 と、合わせてくれる。


「そっか。じゃ、先に出るわ」

「うん。アイリーン、あとでね」

 パチン、とウインクを送ると、アイリーンはなんともいえない顔で頷いた。

 並んで出ていく二人を見送る。


「……あんなんで何とかなるのか? あの二人は」

 アルフレッドが溜息交じりに言った。

「さぁ? わかんないけど。最近二人きりになる機会もなかったし、たまには二人きりで話す時間があってもいいかな、って」

「だからケインを先に帰したのかよ?」

「それもあるけど、ケインの場合、単に無理して練習させたくなかっただけよ。怪我でもされたら困るじゃない」

「なるほど。じゃ、俺たちも時間置いて、帰るとするか!」

 などと口にするアルフレッドの服の裾を掴み、私はニヤリと笑う。


「そうはいかないわ。話したいことはね、ちゃんとあるの」

 それはそれ、これはこれ、なのである。


「え、なに?」

 明らかに警戒するような目つきで私を見るアルフレッド。随分と私を理解してくれていると見え。

「そろそろさ、あんたたちも歌ってみたくならない?」

 そう、切り出す。

「……えっ? マジでっ?」

「大真面目よ」


 今のところシートルの二人は踊り専門だ。歌う曲がないから、という理由もある。が、『愛のうた』でアッシュが曲も詩もイケる、という事が分かった今、新曲を出すことはそう難しくはない気がする。……ま、大変なのはアッシュなんだけど。


「歌いたい!」

「でしょう?」

 私は再びニヤリと笑う。ただ……、


「で、二人は歌えるのよね?」

 めちゃくちゃ音痴だったりしたら、この話は流れる。いや、流す!!

「あ~……そういや、人前で歌ったことはないからそれはなんとも」

「じゃ、ちょっと歌ってみてよ」

「え? 今ここでっ?」

「そ。即席選考会オーディションね」

 容赦なく、言い放つ。


 アルフレッドは渋い顔をしていたが、私の顔を見て諦めたのか、ふぅ、と大きく息を吐き出し、どうやら覚悟を決める。


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


気が付けば君は僕の中にいて

知らぬ間に君は僕を支配してた

君のいない日々など考えられず

君の姿見つめては頬を緩める


失くしたくないから

いつもそばにいて欲しくて

触れていたいから

いつも手を伸ばすけど――


。oOo。.:*:.。oOo。.:*:.。oOo。


 ほぇぇぇぇぇぇ!


 私、あまりの衝撃に思わず顔が紅潮するのが自分でも分かった。

 これは……、


「なにしてるんですかっ!」


「え?」

「へ?」


 飛び込んできたのはアッシュ。で、何故か険しい顔でアルフレッドを見ている。


「リーシャ様に何をする気だ!」

 私を抱き寄せ、叫んだ。

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