第47話 アイドルだった私、アンコールを受ける
「みなさん、ご協力ありがとう~!」
大盛り上がりの会場を宥めながら、オーリンが声を掛ける。
「続いては、今日、この公演を開催してくださったマクラーン公爵!」
さっと手を差し出し、公爵を紹介する。名前を呼ばれ、公爵夫妻が立ち上がった。
「私達と、会場を繋いでくださったマクラーン公爵にも、盛大な拍手を!」
ワーッと皆が拍手を送る。彼らにしてみれば、公爵は領主である。こんな風に関わることなど普段はないのだろう。同じ舞台を見ながら、同じように踊ることなど。
「そんな公爵夫妻のために作られた歌があるのです。どうかみなさんも思い浮かべてください。あなたの、大好きな人を。愛を伝えたい、お相手を……曲は『愛のうた』」
スゥーっと声のトーンを下げ、次の曲へと移る。
照明なんてないから、舞台が変化するわけではない。なのに、彼女の曲紹介は、まるで舞台の色を変えるかのように次の曲へと誘ってくれるのだ。
静かに、弦がメロディを奏でる。
ルル、イリスが音楽隊の横に。舞台上には、私とランス、アルフレッドとニーナ、ケインとアイリーンが組んで社交ダンスを踊る。
*゜*・。.。・*゜*・。.。
気が付けば君は僕の中にいて
知らぬ間に君は僕を支配してた
君のいない日々など考えられず
君の姿見つめては頬を緩める
失くしたくないから
いつもそばにいて欲しくて
触れていたいから
いつも手を伸ばすけど――
*゜*・。.。・*゜*・。.。
曲調が、変わる。
テンポアップと共に、私達のダンスも形を変えて行く。私とランスが舞台中央で踊る。
思いを、爆発させるように!
他の面々もステップを踏みながら踊る。歌で、表情で、動きで。好きな人への愛しい気持ちを、体全部で表現する!
*゜*・。.。・*゜*・。.。
愛なんて簡単な言葉で済ますには
あまりにも浅はかで物足りないよ
愛なんて曖昧な形のないものに
この想い委ねるのはなにかが違う
なんと言えばいいのか
伝える術がわからないんだ
どうしてもわかってほしい
好きでたまらないんだ(好きなんだ!)
なんと言えばいいのか
伝える術がわからないんだ
これからの毎日もずっと
そばにいて微笑んで……(ここにいて!)
愛なんて簡単な言葉で済ますには
あまりにも浅はかで物足りないよ
愛なんて曖昧な形のないものに
この想い委ねるのはなにかが違う
それでも伝えたくて、届けたくて
この心、歌に乗せ君に送るよ
これは不器用な僕からの愛のうた
君を思って止まない僕からの愛のうた
*゜*・。.。・*゜*・。.。
みんなで踊るから、誰のダンスが上手くて、誰のダンスが下手かが一目瞭然となる。纏まりのある踊りの中で、ケインだけ、動きが鈍い。それは普通なら悪目立ちするだけ。しかし、ケインを追う皆の目は、とても優しい。
何故か?
彼のダンスは、応援したくなるなにかを持っているせいだろう。
『頑張れ、ほら、他のみんなに追いつけ』
そんな風にケインは、客を魅了しているのだ。一生懸命さを、武器に。
ほぅ、と会場からため息が漏れるのを聞いた。みんな、静かに歌の世界に入り込んでくれていたのがわかる。
曲が終わると、盛大な、拍手。
私たちは、並んでお辞儀をする。
「それでは、次が最後の曲となります」
オーリンが告げると、客席から
「えーっ?」
「もっとやって~!」
「もっと聞きたい!」
など、嬉しいヤジが飛ぶ。
お付き合いで言っているわけではなく、皆、本当にそう思ってくれているのがわかる。
でもね、時間ってものがあるのよ。
それに手持ちも尽きるのだ、残念ながら。
「みなさんにそんな風に言っていただけて、私達は幸せです。今日、お集まりいただき、私達を知っていただけたこと、心より嬉しく思います。こんな風にまた、皆さんの前で歌い、踊ることが出来ますよう、これからもマーメイドテイルと、シートル、それにマクラーン公爵をよろしくお願いします!」
会場に、笑いが起きる。
「それでは最後に、みんなで歌います! 曲は『シンクロ』です!」
最後は全員で。
オーリンも交えて皆で歌い、踊る。
ワイワイと楽しく。音楽に、乗る。
そんな私たちを、遠くから見ている者たちがいたことに、私はまったく気付いてはいなかった――
「あれは、何をしているんだ?」
通りすがりの商人の馬車……のように見える幌付きの荷台から顔を出したのは青年。広場から聞こえてくる聞いたこともない音楽と、大勢の人だかりを見遣る。
「さぁ? 何かのお祭りでしょうか?」
聞かれた男も首を傾げた。
馬車はその歩みを止め、男は御者台の上に立ち上がると野外ステージの方へ眼を向ける。
「おかしな格好をした連中が何人かで踊っているようだな。あれは旅芸人か? いや、それにしては身なりがきちんとしているような……いや、なんだあのドレスは?」
今まで見たこともないデザインのドレスを着ているように見える。男たちの服装も、なんだかおかしい。
「お前たちはそこで待て」
「しかしっ」
「すぐ戻る!」
青年はそう言い残し、野外ステージへと走った。
近付けば近付くほどに、その光景が異様であるとわかる。観客たちの白熱っぷりは何かに取り憑かれたようですらあり、なぜか客席には、町民だけではなく爵位のある貴族も座っている。領主が開催している慰労祭かなにかなのだろう。が、異様だ。音楽も踊りも、すべてが。
舞台を見る。
初めは異質なものを見るような視線だった。
だが、がむしゃらに体を動かし、がむしゃらに歌う姿を見ているうち、青年は、いつの間にか目が離せなくなっていたのだった。
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