第46話 アイドルだった私、一体感を味わう

 リズム隊が太鼓を鳴らす。


 重低音からの、ラッパ!


 ランスとアルフレッドが左右に分かれると、真ん中から飛び出してきたのは帽子を被った男装の麗人……そう、宿屋のニーナである。


 会場から歓声が上がる。ニーナのご両親は、はじめそれが自分の娘だと思わなかったようで、ニーナが帽子を脱ぎ捨て空に飛ばした瞬間、口をあんぐり開け驚いていた。


 でも、驚くのはまだ早い!


 音楽が鳴り響く。

 リズム隊と、管楽器、弦楽器がこれでもかというほどぶつかり合って、派手に、激しくビートを刻む。その音楽に負けないほど、三人はキレッキレのダンスを披露するのだ。


 ランスが手を前で組む。そこにアルフレッドが足を掛け、飛び上がる。女性たちからの黄色い声援が飛び、男性からは唸るような声が漏れる。

 今度はアルフレッドが同じように手を前で組み、そこに足を掛けたニーナが飛ぶ! なんとニーナ、バク転です! カッコいいしか出てこない!


 会場はずっと大盛り上がりで、大拍手と歓声が鳴りやまない。ニーナのご両親なんて、号泣しちゃっててさっ。すごいよ、みんな!


 激しさを増すダンス。軽快に流れる音楽。会場では、ジャンプしたり手拍子したりする若い子の姿も見える。これぞまさしくライブじゃないっ?


 ダンッ!


 と、打楽器が鳴り、三人がポーズを決めた。


 ワァァァァァ!


 一斉に送られる拍手と声。用意された椅子に座っていた面々はスタンディングオベーションしている。三人が深々とお辞儀をし、舞台を降りるまでずっと、拍手と歓声は鳴り止まなかった。


 舞台袖に戻ると、ニーナは顔を歪ませ泣き出した。解けた緊張と、舞台の快感と、みんなの拍手と、生きてる実感。そう。初舞台って本当に感動するんだよね。わかる!


 私はニーナの頭をポンと叩き、

「最高だった! さ、まだ次があるよ?」

 と言って舞台へと向かう。


 ここからはアッシュの頑張りを褒めてあげたい!


 ざわつく会場。まだ、シートルの興奮が冷めないのだ。しかし、スッとオーリンが前に出ると、会場のざわつきが収まる。オーリンもすごいな! もう、会場は彼女を『司会進行役』だと認めているのだ。だから、彼女の言葉を待っている。次は? 次はどんなことが起きるの? と。


「さて、ここからは会場の皆さんも一緒に楽しんでいただこうと思います! まずはマーメイドテイルが歌う次の曲『ドキドキ密集』をお聞きください。リーシャ・エイデル、アイリーン・エイデルの二人です!」


 オーリンの言葉が終わると、ドキドキ密集のイントロが流れる。ルルとイリスも、勿論コーラスとして参加だ。コミカルで、軽くて面白い曲。今回は、こっちの人達用にオリジナル歌詞を変えて歌う。


*゜*・。.。・*゜*・。.。


密集してタイの❤(あっはーん)


貴族平民身分の差だって

全部無視していいでしょう?

あなたの隣に座ってぎゅーして

お菓子も半分こ(間接きっす☆)


そうね魔法は使えないかもだけど

あなたの心に灯をともし

どんなに暗い毎日さえも

あっという間に燃え上がる!


密集してタイの❤(あっはーん)


*゜*・。.。・*゜*・。.。


 笑って、怒って、色んな表情で踊る。アイリーンと掛け合いながら、時にはソロで、振り付けを交え、踊る。アッシュが言っていたみたいに、コーラス二人が入ってくれたことで歌に力が加わる。マイクがない分、声が強くなるだけで印象がガラッと違ってくる。


 曲と曲の間奏で、オーリンが再び前に出る。


「さぁ、皆さんも一緒に歌って踊りましょう! いいですか? 今から私がやる動きに合わせて、一緒に振り付けをしてくださぁい!」

 音楽隊が編曲部分を演奏。サビの部分にオーリンが振り付けを真似る。


『密集してタイの❤(あっはーん)』


 密集、のところで、自分で自分を抱き締めるような仕草。してたいの、のところで体をくねらせ、そしてあっはーん、で両手をくちに持ってきて投げキッス!


 会場が笑いに包まれる。が、小さな子供たちは一回で覚えたのか、オーリンに合わせて振り付けを始める。


「それじゃ、二番もいくよ~!」


*゜*・。.。・*゜*・。.。


子爵、公爵、男爵、

言い方色々あるでしょう?

あなたの隣に座ってぎゅーして

私はお姫様(プリンセス!)


そうねみんなで仲良くねなんて

無理とわかっているけど

どんなにダメだと言われても

あっという間に燃え上がる!


密集してタイの❤(うっふーん)


*゜*・。.。・*゜*・。.。


 今度も同じように、密集、のところで、自分で自分を抱き締めるような仕草。してたいの、のところで体をくねらせ、うっふーん、のところは体の線に合わせ腕をピッと伸ばし、掌をペンギンのように突き出す。そして腰を曲げ、お尻を突き出すようなポーズ。


 これも会場からどっと笑いが起こった。


「みなさん、覚えましたか~? それじゃ、みんなでやってみましょうっ! そぉれっ。密集してたいのっ、あっは~ん」


 オーリンの声が会場と一体になる。私やアイリーン、ルルやイリス、ニーナにシートルの二人も舞台上で同じように踊る。


「密集してたいのっ、うっふ~ん」


 オーリンはわざとおちゃらけた顔で、大袈裟にダンスを披露する。その様子を見て、会場中が笑顔に包まれ、何度か繰り返すうちに、子供たちだけではなくいい年の大人たちまで一緒に歌い、踊り出した。

 椅子席のマクラーン夫妻も、子爵夫妻もカンナも、みんな歌って、踊っているのだ。


「それじゃ一曲通すよ! みんな一緒に歌ってねぇ~!」


 オーリンが下がり、私とアイリーンが前に出る。バックダンサーに、シートルの二人とニーナ、そして、ここからはケインも加わる。全員が舞台上を駆け回りながら、コミカルに歌い、踊る。それに合わせて観客が、サビの部分を一緒に歌い、踊った。


 一体感。


 まさに、みんな揃って『密集してタイの!』なのだ!

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