第31話 アイドルだった私、選考会、開始!

「ちょっと、お姉様……?」

「おい、リーシャ」

「どういうことだよ、これ?」

 三人に責められ、私はこめかみに指をあて、言った。

「……あ、あっれぇ~?」


 選考会オーディション当日、訪れた人数は軽く百人を超えていたのである。


 想定外すぎる反響の大きさに、私たちはてんやわんやだった。まずは並んでいる人を男女に分け、ランスとアルフレッド、私とアイリーンに別れて、それぞれ同性を面接することにした。


 動機や得意なこと、メンバーになったら何をしたいか、なんてことを聞いていくと、案外化けの皮はすぐに剝がれるもの。あっという間に人数は三分の一まで減った。中には階級を盾にごねる輩もいたけど、そこはもう、マクラーン公爵の元やっているってことを口にするだけでサクサクと解決していく。ああ、やっぱり権力の傘の下ってやりやすいわ。大きな事務所に所属してる方が有利だ、っていう芸能界の掟、異世界でも同じなのね。


 一次審査を通過した人は、全員うちの広間に集まってもらう。そこそこ広いはずんだけど……大分密集してる状態だな。


 ふと、広間を見渡すと、ケインの姿がある。どうやら一次は通れたみたい。アイリーンは少し複雑かもしれないけど。


「リーシャ様」

 アッシュが来る。彼も今日の選考会に協力してくれるっていうから呼んであったんだけど、あまりの人数に驚いてる様子。

「アッシュ、想定よりちょっと多いんだけど、今日はよろしくね」

「いや、ちょっとって……」

 アッシュには『二次審査から協力お願いしたいの! 人数的には五~六人だと思う!』なんて言ってたんだっけ。実際はざっと見ただけでも十倍くらい、いるわけで。


「打ち合わせ通りにはやってられないから、ダンス大会始めちゃいましょうかね」

 私はアイリーンとランス、アルフレッドを呼び言った。

「アッシュに、適当に演奏してもらうから、一人ずつパートナー組んで踊ってみてもらえる? 途中でアドリブ入れたりして反応見てもいいし。私は外から見るから」

「必要なのは?」

 ランスが訊ねる。

「勘の良さと、付いて来ようとするガッツ」

「なるほど、了解」

「わかりましたわ」


 三人がにんまりしながら候補者の中へ入っていく。私はアッシュに合図を送り、通常、舞踏会のダンスで使われているオーソドックスな曲を演奏してもらった。


 くるり、と三組のダンスが始まる。そこだけを見たら社交界でのワンシーンのようだ。しかし、ランスが組んだ女性はもたついていてダンスが下手だし、アルフレッドと組んだ女性は、基礎はそこそこ出来てるけど、アルフレッドがアドリブかました瞬間、パニくって踊るのをやめてしまった。アイリーンが組んだ男性は……、


「あ、」


 瞬間を、見てしまう。

 アイリーンがビンタをぶちかましていた。


*****


「下手に出てりゃいい気になりやがってっ」

 ぶたれた相手が激高してアイリーンに手を挙げた。が、アイリーンはまったく避けようともせず相手を睨み付けている。


 危なっ、


 私が駆け寄るより先に、二人の間に割り込んだ人物がいる。


 バチンッ


 鈍い音がして、割って入った人物が尻餅をつく。痛そう……。


「あ、」

 手を挙げた男性が怯んだ。


「女性に手を挙げるなど、言語道断ですね。あなたは確か、カミナイル伯爵家のナバル……さんでしたか?」

 尻餅をついた人物は殴られた頬 をさすりながらゆっくりと立ち上がった。

「おっ、お前、誰だよっ」

 名を呼ばれ、更に怯んでいるナバルに、名乗った。


「僕の名前はケイン・マクラーン。お見知りおきを」


 名乗った瞬間、辺りがざわついた。そりゃそうだろう。マクラーン公爵家はこの選考会の主催者なのだし、そもそも有名な名家であり、この辺りを牛耳っている大地主だ。


「ひぃっ」

 今度が手を挙げたナバルが尻餅をつく。


「見てましたよ。あなた、ダンスしながらアイリーン嬢を口説いていましたよね? 更には、どさくさに紛れて腰を引き寄せていた。卑劣な行為です。自覚、ありますか?」

 淡々とした口調ではあるのだけど、ケインてばすごく怒ってる……よね。


「あ、あのっ、す……すみませんでしたっ」

 尻餅をついたままナバルが頭を下げる。が、それを見たケインは、目を吊り上げて

「謝るのは僕にではなく、アイリーン嬢にですよ!」

 と言い放つ。


 ひゃ~! カッコいい!


 そんなケインの言葉を聞いたアイリーン、さすがに頬を赤らめております!

「あ、あの、私も……手を出しましたから」

 ペコ、と頭を下げるアイリーン。


「ほんとにっ、あのっすみませんでしたぁぁっ!」

 半泣き状態でそう叫ぶと、ナバルは逃げるように走って出て行ってしまった。残されたギャラリーは一部始終をただポカーンと見つめている。


 私は、パン、と手を叩くと、


「今日はここまで! 二次審査は時間を置いて明日行います! 皆さん、申し訳ありませんが明日またおいでください。よろしくお願いします!」


 そう、告げた。


 このまま続行するのは無理だろう。


 戸惑う候補者たちへの説明はシートルの二人に任せることにした。まずはケインの手当をしなければ。アイリーンも動揺してる。


 私は、ケインとアイリーンをホールから別室へと連れて行った。

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