第27話 アイドルだった私、マクラーン公爵家で跳ねる!

「この度はお招きいただき感謝申し上げます。精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願いします」


 私は優雅にカーテシーなどしながら、目の前のマクラーン公爵に頭を下げる。この辺りを牛耳っているって聞いてたから、すごく怖いオジサンを想像していたのだけど、実際はナイスミドルなイケオジだった。


「こちらこそ、楽しみにしているよ。社交界では皆の視線を掻っ攫って釘づけにしているそうじゃないか」

「そんな、とんでもございませんわ」

「あら、ご謙遜を! 私も今日の公演をとても楽しみにしていたのよ? あなたたちの公演を見た人は、見ていない人に自慢して回っているっていうじゃない!」

 公爵夫人が隣で目をキラキラさせている。

「そんな風に言っていただけると嬉しい限りですわ」


 目の前にいるのはジェイス・マクラーン公爵と、公爵夫人のエリサ。優しそうで美しい方、という印象。そして息子であるユーリスと、その奥方であるアナベル。ユーリスとアナベルは結婚して半年だと聞いた。そのせいか、アナベルはまだ少し緊張した面持ちでこの場に立っている。それから、年の離れたケインは、アイリーンと同じ十四歳だそうだ。


 これがマクラーン公爵一族である。


 公演前、私とアイリーンは挨拶のため、一足早く屋敷に足を運んでいた。エイデル家とは比べ物にならないほど立派なお屋敷で、会場となる大広間も豪華絢爛! 興奮するったらないわ!


「公演が終わった後で、またご挨拶に伺いますね」

 というか、そっちが本番なんだけどね。

 私はにっこり笑うと、アイリーンと共にその場を後にした。


*****


 会場では、今日の噂を聞きつけ集まった貴族たちがマーメイドテイルの公演を今か今かと待ちわびていた。タリアが店で声高に宣伝してくれたおかげもあり、マクラーン公爵邸でのコンサートへの参加希望者は相当な数になったらしい。


「すごいな、これ……」

 ドアの隙間から会場を覗き見していたランスがゴクリと喉を鳴らす。確かに、この前のエイデル家での規模と比べると、軽く倍くらいになっている気がする。それだけ注目されているという事。リベルターナ発信の『噂』も一役買っているのだろう。絶対にしくじることはできない。


「さ、そろそろ開演時間よ。今日は前回よりもお偉いさんが多いみたいだし、気合い入れてぶちかましましょうね」

 ワクワクしてる私とアイリーンとは対照的に、ランスとアルフレッドは緊張した面持ち。でも私は知っている。この二人は、舞台に出ると変わるのだ。女性たちからの熱い視線を浴びれば浴びるほどに、気持ちが高ぶり乗っていく。心配はしていない。


「さぁ、行くわよ!」

 私の掛け声を合図に、舞台へと駆け上がる。


 会場からワーッと歓声が上がる。エイデル家でのコンサートに来てくれていた人なのだろうか。今日が初めての紳士淑女は少し戸惑ったように私たちを見ている。そんな人たちを、私たちは取り込まねばならないのだ。


 ドン! と打楽器が大きな音を立てる。その音を合図に、私たち四人は定位置に付きポーズを整える。今日初めて、四人でのダンスを披露する。軽快な音楽に乗せ、私とランス、アイリーンとアルフレッドが組んだ。

 まずは普通のリズムで社交ダンス。優雅に、流れるように、美しく。会場から、ほぅ、と息が漏れた。アシンメトリーのドレスが映える。アイリーンのデザインは本当に素敵!


 ドンドンドンドン


 打楽器を中心にリズム隊が低い音でテンポを上げ始めた。私たちは社交ダンススタイルを解除し、曲に合わせて、切れの良いステップを踏む。今まで見たこともないステップに、会場がざわつくのが分かる。


 腕を回し、腰を振り、首を右へ、左へ。フォーメーションを変えながら、ドレスの裾を翻し、踊る。飛ぶ!


 ランスが体の前で手を組み、アルフレッドがそこに足を乗せ、宙を舞った。


「きゃ~~!」

「アル~!」

「ランス様~!」


 黄色い声は、ファンクラブの皆さまだろうか。会場の熱が上がってくるのが分かる。

 手に取るように、わかる!


 私とアイリーンが舞台の袖にはけると、ここからはシートル二人の独壇場だ。


 サイドウォークからのブレイクダンス。ま、実際にはこれ、なんちゃってブレイクダンスなんだけどね。私の記憶と指導で可能な範囲内でのブレイクダンス。それでも、会場のウケはとてもいい。そうよね、こんなダンス、見たことないだろうし。


 二人が力強く動けば動くほど、会場からの黄色い声援が増えてゆく。年齢を問わず、女性たちの目がハートマークに変わっていくみたいだ。ううん、女性だけじゃない。男性もまた、あっけにとられた顔つきから賛美の表情へと変わってゆく。


 私はコッソリと、マクラーン公爵の姿を探した。一家はセンターに設置した特等席で見ていたのだが、公爵夫人と長男の奥方は完全に目がハートマークだ。公爵は口をぽかんと開けている。うん、多分……楽しんでくれている…と思う……けど。


 ジャン、と弦楽器が一斉に跳ね、曲が終わる。会場から割れんばかりの拍手が起きる。黄色い声援が飛び交う中、シートルの二人が手を振りながら舞台を降りると、次の曲が流れ出す。


 さぁ、今度はマーメイドテイルの出番だ!


 私はアイリーンと目配せをすると、舞台へと走った。


「皆様、今日は私たち、マーメイドテイルとシートルのためにお集まりいただきありがとうございます! どうぞ楽しんでいただけたら幸いです!」

 声を張る。

 会場からは、私とアイリーンの名を呼ぶ野太い声が聞こえた。あは、ファンの皆様に、感謝だわ!


「曲は、シンクロ!」


 私が跳ねる。

 負けじと、アイリーンも跳ねる。


 私が笑う。

 アイリーンがむくれた顔をする。


 表情をコロコロ変え、私とアイリーン、二人で歌う。


 そう。シンクロは、マーメイドテイルの歌だもの。二人で、声を張り上げる。歓声に負けないように。会場中に、届くように!


*:.。..。.:+・゚・*:.。..。.:+・゚・


季節が行くよ 光の矢みたい

追いかけるだけでもう 精一杯

サヨナラなんてさ 言う気はないけど

どこに向かって 歩いたらいい?


シンクロしたいよ 君の心に

離れ離れに いつかなっても

シンクロしたいよ 君の記憶に

同じ風景の中にいたんだって きっと覚えていて


忘れないで

覚えていて


*:.。..。.:+・゚・*:.。..。.:+・゚・


 会場中が、私たちを見ている。


 私たちを、感じているんだ!

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