第23話 アイドルだった私、課題山積につき
「あああああ、どうしよう~!」
やる気満々だった私、あっという間に窮地! 紙に書き出した『やることリスト』がパンパンなのだ。
頭を抱えてる私に、声を掛けてくれたのは意外な人物だった。
「どうしましたの?」
「ああ、アイリーン。講義は終わったの?」
「終わりましたわ! これからダンスのレッスンをと思ったのだけど、お姉様はお忙しいのでしょうか?」
ああ、本当に……。
初めのころとは大違いなアイリーンの態度。あんなに敵意剥き出しだったのがまるで嘘のように、私に懐いてくれちゃって。こうなるとね、なんだかもう、可愛くて仕方いのよね。不思議なもんだわ。
「あ、うん。次の公演でやってみたいことがあるんだけど、他にもやらなきゃいけないことが溜まってて、私ひとりじゃどうにもこうにも……」
つい、弱音を吐いてしまう。と、アイリーンは私が書いたメモを覗き見る。
「私に何か手伝えることはありませんの?」
「え?」
「お姉様は何でも一人で抱え込みすぎなのです! 私では頼りにならないかもしれませんけど……もっと頼っていただきたいですわっ」
やだもうっ。かわゆ!
私、思わずアイリーンを抱きしめてしまう。
「ありがとう、アイリーン!」
お願いできること……、ある!
「そうだわ、アイリーン絵を描くの得意だったわよね?」
マーメイドテイルの衣装を作るとき、アイリーンにも手伝ってもらったことがあるのだ。デザイン画。私は絵が下手くそなので、とても助かるんだよね。
「まぁ、多分お姉様よりは上手いですわね」
ふふん、と腕を組んでみせる。
「今度のコンサートの衣装、全部任せる!」
「ええっ?」
「それと、下着のデザインも考えてほしいんだ。実はね、こういうのを作ろうと思ってて」
私、アイリーンに今度作ろうと思っている案を話す。それは、いわゆる『盛りブラ』なのですよ!
「パット?」
「そう! ブラの下の部分にね、パットを入れるのよ。そうすると、胸の小さい人にも谷間が出来るのです!」
「コルセットで無理に寄せなくても……」
「そう!」
この世界には盛りブラがない。自分のお肉を寄せて上げるにはコルセットで脇から肉を集めてぎゅうぎゅうに締め上げて寄せるしかないのだ。それってとてもきついし、痛いよね。成長期の胸にはよくなさそうだし。
「なるほどですわ。これはいいアイデアですわね!」
アイリーンが目を輝かせる。
「レースとかフリルとか使っても可愛いわよねぇ、きっと」
私、前世のランジェリーショップを思い浮かべて想像する。
「わかりました。やってみますわ!」
そう言ってパタパタと自室に走っていった。これで二つ、片付いた! では私はこっちをやりますかね。
机に向かう。
新曲を、作るのだ!
*****
「ええっ? そんな無茶なっ」
顔面蒼白でそう言っているのは、楽隊のメンバーの一人。マーメイドテイルの曲を楽譜に起こして、伴奏を考えてくれたアッシュ・ディナ。確か年は二十二歳で、柔らかい印象のメガネ男子。薄茶の髪に、同じ色の瞳。確か、子爵家の三男?
社交界に楽隊はつきもので、大体どの家はどの楽隊を使う、って言うのが決まっているらしく、我がエイデル家はアッシュの所属する隊を毎回呼んでいる。
で、私はマーメイドテイル復活の時、楽隊メンバーに無茶を承知でオリジナル曲の伴奏を頼んだわけ。
「前回だって大変だったんですよ? いくら曲があるとはいえ、歌に合わせて伴奏を作れ、なんて! それが、なんですかっ、今度は全部を作れと?」
「ああ、歌詞は私が書くの。それに、曲をつけてほしいのよ!」
「……あのですねぇ、リーシャ様の歌は我が国……いや、大陸全部探しても聞いたことのないメロディなんですよ? そんなの、曲なんか作れるわけっ、」
「私も一緒にやるからっ。ね? お願い!」
私、必死に食い下がる。可愛く首なんか傾げてみせる。そう、おねだりする時は可愛くお願いするのがコツなのです!
「……そこまで…仰るなら」
アッシュが何故か顔を背けて、そう答えた。
「やった! アッシュありがとう!」
私はアッシュの背中を軽く叩き、上機嫌で微笑んだ。何故かアッシュは眉間に皺を寄せ、小さく息を吐き出す。
「そんなに大袈裟に考えなくていいって! あ、でもすごく大事な曲になると思うから、とびっきりのメロディ、考えてね!」
我ながら矛盾だらけの無茶ぶりである。しかもこの作業、三日以内に終わらせなければならない。そうじゃないと、振り付け考えて練習して……マクラーン公爵家のコンサートまであと十日しかないんだもの!
「じゃ、連日作業ですね」
アッシュが口を尖らせ、言った。
「そうね、三日間ほぼ籠りきりでこれをなんとかしなきゃ。あ、そんなに拘束しちゃって大丈夫?」
その間に、どこか他で演奏の仕事があったら…、
「大丈夫です。今日から三日間はちょうどお休みだったので」
「じゃあお休み全部潰しちゃうことになるわね。予定とか、大丈夫だった?」
見上げる私の顔を見て、またすぐに視線を逸らすアッシュ。ヤバい。怒らせちゃったのかもしれない……。
「休みの予定も特にないから大丈夫ですっ。それより、歌詞見せてくださいよ。どんどん進めないと間に合いませんよ、リーシャ様」
アッシュに言われ、私は初めて書いたオリジナルの歌詞を披露することになったのである。
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