sin,cos,protein
小夜樹
第1話
春、穏やかな光が新一年生の教室を包み込んでいた。教壇には俺達の担任であろう、ガッシリとした体格の男がニッと笑みを浮かべながら立っている。苦手だなぁこういう人。
「いいかお前らあ!、学校ってのはつまり筋トレをする場所だ」
嗚呼終わった。俺は自己紹介もせずにとんでもないことを言い放ったその男を眺めながらそう呟いた。少なくとも一年間、俺はこの頭のおかしい体育教師の元でやっていかなければいけないらしい。チラッと教室を見渡してみると、おそらく俺と同じような表情をしているクラスメイトがチラホラいて少し安堵する。そんな俺達の様子を見てか、彼は続けた。
「フッ、まあいいだろう。俺はこのクラスの担任を務めることになった安藤武史だ。担当教科は数学、よろしくな」
教室が少しザワつく。どう見ても脳も筋肉に支配されているこの男が数学科の教師だとは思えないからだ。しかし安藤は冗談だと種明かしをすることもなく、ふと真面目な顔をして話し始めた。
「お前たちの表情を見れば、何となく考えることが分かる。何が筋肉だって思ってるだろう。」
御名答。
「まず、仮に高校が大学受験に備える場所だとしよう。受験ってのは2時間近く椅子に座ってなきゃいけない。それだけかと思うかもしれないが、同じ姿勢で問題を解き続ける過酷な2時間を1日に3,4回繰り返す。これが受験だ」
「それに加え長い文章を効率良く読む、早くかつ丁寧に文字を書き続ける、こんなことが制限時間下の緊張感の中求められる。はっきり言ってこれはスポーツだ」
確かに、と納得しかけたその時、安藤が何かを配り始めた。
「という訳でだ、本来問題集に充てる予算をプロテインに使うことにした。だからといって普段の食事でもタンパク質を欠かすことのないようにな!」
何言ってんだ?こいつ。
その後、なんだかんだあってクラスの平均偏差値が80を突破するのはまた別の話。
sin,cos,protein 小夜樹 @sayo_itsuki
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