第11話 屈服
「ベロッキオよ。お前には今一度、この場で私に対する忠義心を示してもらいたい」
「そのような理由で臣下を集めたのですか? 態々確認などせずとも、私は臣下として心からアルド様に尽くしておりますよ」
「ならば言葉を変えよう。領主アルド・ファルコニエーリが命じる。ヴァスコ・ベロッキオよ。その場に跪き、我に
周囲が騒めき立ち、ベロッキオの眼光も鋭くなる。
「お言葉ですが、いかに主君からの命であったとしても、意味もなくひれ伏すような真似は承服しかねます」
「ほう。私の命を無意味と言うか?」
「……領主として、恣意的な命令は慎むべきということです。それは圧政の火種となります」
「私に意見するか?」
「ここで私が意見しなければ、この領は何も変わりません!」
ベロッキオは毅然とした態度で己を貫いた。その様子にアルドは青筋を立てたが感情的に声を荒げることはせず、後方に控えるリカルドへの合図として右手を小さく上げた。
――許せ。ベロッキオ……。
リカルドは沈痛な面持ちで、ベロッキオにだけ魔導による重圧をかけた。あくまでもこれは一時的なもので、ベロッキオを負傷させるつもりはない。周囲には一切影響が及ばず、リカルド程の魔導の素養を持つ者もいないので異変に気づいていない。
「……なんだこれは」
ベロッキオが額に冷や汗を浮かべ、右ひざを床につけた。間を置かずに今度は左ひざを折る。突然体全体が重くなり、姿勢を低くしなければその重圧に耐えきれそうになかった。自然とベロッキオの姿勢は主君であるアルドに跪くような形となった。
「やれば出来るではないか。殊勝な心掛けだぞ、ベロッキオ」
溜飲の下がったアルドはさぞ満足気に笑みを浮かべた。
他の臣下たちはベロッキオが突然跪いたことに騒めきながらも、ベロッキオのことだからあれは単なるポーズに過ぎず、次の瞬間にはまた毅然とした態度で反骨するであろうと誰もが思っていた。しかし。
「これまでのご不敬をどうかお許しください。今後は心を入れ替え、誠心誠意アルド様にお仕えすることをここに誓いましょう」
それはとても演技だとは思えない。演技であってもベロッキオは絶対に口にしないであろうと確信出来る、絶対的な忠誠を誓う言葉であった。あくまでも形だけ跪かせて恥をかかせられればそれで良いと思っていた当のアルド自身が、思わぬ展開に目を丸くしているのだから事態は深刻だ。
「……私はなんてことを」
絶望しきった顔でリカルドはその場に崩れ落ち――
『やめろ!』
「……アダギウムが解かれた。核心に近づきすぎましたか」
突然、アダギウムが音を立てて崩壊し、ララの意識も現実へと引き戻された。その影響は現実世界にも及んでおり、朽ちかけていた館が重圧に耐えきれず、音を立てて崩壊を始める。寝起きのような感覚に囚われていたララの頭上に、崩れた天井が落ちてきた。
「ララ、危ない!」
館の異変を察して駆けつけたベルナルドがララを庇い、落ちて来た天井目掛けて長剣を強烈に振るって、剣圧だけで天井を吹き飛ばした。それと同時に館全体が完全に崩壊。ララとリカルド、奇書が置かれた机の周囲だけが無事で、館は瓦礫の山と化した。頭上にも青天井が広がっている。
「ベルナルドさん。今のはどうやったんですか?」
「危機一髪の直後に質問とは、お前の好奇心は筋金入りだな。口で説明出来るようなものじゃないが……二十年も傭兵をやっていればあれぐらいは出来る……」
それが事実なのかはぐらかしなのか、ベルナルドが重圧に耐えきれずにうつ伏せに倒れ込んでしまったので分からなかった。現象の中心地である館に突入するだけでもかなりの負担なのに、その中で落下してきた天井を力技で吹き飛ばしたのだ。強靱な肉体を持つベルナルドも流石に体力の限界だった。
「大丈夫ですかベルナルドさん?」
「……敷物の気分がよく分かるぜ。敷物から床の染みになる前によろしく頼むわ」
「直ぐに解決します。申し訳ありませんが、もう少しだけ敷物でいてください」
「頼もしいね……」
ベルナルドが頬を床につけながら顔を横に向けると、ベルナルドを背中に庇うララと、奇書を庇うように突如とした出現した、人の形をした青白いエネルギー体とが因縁のライバルのように向かい合っている。
著者の強烈な感情を奇書の魔力が
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