町を駆け巡る小さな思惑

!~よたみてい書

乱れる呼吸

「はぁ、はぁ、待って。ウィル、わたし休みたいよ」


 今日はウィルと走り込みをする日。


 わたしの不摂生な生活ぶりを見て、ウィルは一緒にサラリウムの町中を走り回って体作りをしようと誘ってきた。

 

 わたしの前方にはウィルが一定の距離を保って走ってくれている。

 何となくだけど、わたしを置いていかないように、速度を抑えている気がした。

 それはありがたいことだけど、なんだか申し訳ない。

 心のどこかに、小さいけれどもやもやとしたものが生まれている。

 でもそれも、走り終えている頃にはきっと汗と一緒に体の外に流れ出ているはず。


 ウィルは翠玉すいぎょく色の少し長めの髪を大きく振り回しながら、わたしの方に振り向いて心配そうにしていた。


「はぁっ、はぁっ、シャル、大丈夫? なんだか速度が落ちてるような気がするけど」

「はぁ、はぁ、だいじょうぶじゃないです。休憩したいですー」

「まだ20分しか経ってないよ」

「わたしにとってはもう20分経ちましたよー」


 わたしの助けを求める訴えも、ウィルはさわやかな笑顔を見せて気にせず走り続けていく。

 本当に疲れてるの。

 このままじゃわたしは道端で倒れる可能性がある。

 頭の後ろで束ねているこの金色の髪も、今は煩(わずら)わしい。

 今すぐ切り落として、一時の楽を手に入れたい思いが芽生めばえている。

 足がどんどん重くなっていき、次第に足裏に痛みが発生していた。

 わたしの本能が休憩した方が良いと助言してくれている。


 そんなわたしの情けない様子を察知してくれたのか、ウィルが駆け寄ってきた。


「しっかり! ほら、手を握って。俺が引っ張ってあげるから、もうちょっとだけがんばろう」


 それにしてもすごく走りづらそうだ。

 わたしの体がいうこと聞いてくれるなら、いますぐ全速力で走ってウィルを楽にしてあげたい。

 けれどわたしの欲望がまだこのままウィルと手を繋いでいたいと訴えている。

 一体なにを考えているのわたし。

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