その筋肉、隠さないでください!!

桜桃

第1話 こんな展開どうすればいいのぉ~

「はぁぁぁぁぁあああ。幸せ…………」

「何が"幸せ"だよ、この変態筋肉馬鹿」


 ……………………うるせぇぇえわ!!!!!


「ちょっと!! 部屋にいきなり入ってこないでくださいよ裕翔ゆうとさん!!」


 部屋の中で机に向かってパソコンを触っていると、後ろからいきなり呆れたような声が聞こえた。

 そこには、お風呂上りであろう義兄、中沢裕翔さんが肩に白いタオルを置いて呆れ顔で立っている。私のパソコンを覗き込んで息を吐いていた。


 呆れるな!!!


「またアイドルの筋肉を見ているのか…………。この人、最近テレビに出るようになったよな。好きになったのか?」

「筋肉意外興味ないです」

「おい」


 いてっ、頭ポコッてされたぁ…………。


 そのまま裕翔さんは部屋を出て行ってしまった。一体、何しに来たのだろうか。



 裕翔さんとは、お母さんが再婚した時に初めて出会った大学生。私は高校二年生。歳が凄く離れているわけではないけど、なんとなく私から話しかけるのは気が引けるんだよね。

 それをわかってなのか、裕翔さんは気楽になんかあると話しかけてくれる。だから、今回のように普通に話す事が出来るようになった。


 それでも、まだ私から話しかけるのにはちょっと…………。


「はぁ…………」


 そういえば、裕翔さんは私の趣味を聞いても何も言わず、逆に筋肉の話とか雑誌とかを持ってきてくれるんだよな。今まではそんなことなかったから、変な感じ。


「…………筋肉、幸せ」


 ☆


 学校から帰る際、私は今までにないほどのスピードで走っていた。理由は――……


「最悪!!!!!」

「まぁまぁ、通り雨かしらね。これ、タオルでまず体を拭いてから上がってね。廊下が濡れるわぁ」

「はぁい」


 傘を持っていなかった私は、バケツをひっくり返したような雨に打ち付けられました。


 はぁ、最悪。本当に最悪。


「はぁ、このままお風呂に入るね」


 水滴が落ちない程度に体と顔、髪を拭いて脱衣所に向かう。


「あ、今は――……」

「え、なに?」

「裕翔君が――……」



 ――――しゃっ



 脱衣所に入るためのカーテンを開けると、そこには私の大好きな筋肉が――……


「筋肉!?!?」

「固有名詞ではなく名前を呼んでほしかったなぁ」


 脱衣所には、半裸の裕翔さんが服を着ようとしている態勢で固まっていた。心の声が咄嗟に口から出た私を呆れたように見てくる。


 いや、今回のは私が完全に悪い、ごめんなさい。


「まったく…………」

「あ、筋肉…………」

「まさか、服を着て悲しまれるなんて思っていなかったよ」


 いや、だって。私の大好きな筋肉が…………。

 ゴリマッチョではなく、しっかりと均等に鍛えられた綺麗な筋肉だったんだもん。今まで見たどの筋肉より、綺麗で美しく目の保養にしたい。


「……………………触りたい」

「訴えられたくなかったらやめろよ?」

「状況的に裕翔さんの分が悪いのくらい、わかりますよね?」

「お前の後ろに証人がいるのはわかっているか?」


 後ろを振り向くと、スマホのカメラをこちらに向けているお母さんの姿。


「何撮ってるの!? この筋肉は私の物よ!?」

お前の物じゃねぇよ」

「いや、私のものにするの!! こんな美しく綺麗に鍛え抜かれた裕翔さんの筋肉は私の目の保養にするの!!!」


 お母さんも私と同じで筋肉好きだから、これは取られる前に私が取らなければ!!


 裕翔さんの隣に移動し、腕に抱き着く。


「お、おい!!」

「裕翔さんは、私のだからね!!」


 宣言すると、何故かお母さんが「あらあら」と、なんか温かい瞳で微笑んでくる。な、なに…………。なんか、意味深な瞳を向けられているのが気になるんだけど…………。


「お前、それどういう意味か分かっているのか?」

「へ?」


 なに、どういうこと。


 隣を向いて顔を上げると、裕翔さんの顔が間近に。しかも、お風呂上りだからか、少し頬が赤くなっているし、瞳が凄く優しげに見える。

 そういえば裕翔さんって、見た目悪くないんだよな。どっちかというとかっこいいし、女性に声をかけられている光景を見た事がある。しかも、複数回。


「…………し、失礼しましたぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

「あっ」


 そういえば、私今無意識だったとはいえ、異性に抱き着いてしまった!! は、はははははは、恥ずかしぃぃぃぃいいいいい!!!


 雨に打たれたのなんて忘れ、部屋に戻りベットにダイブした私だった。


 ☆


「裕翔君、あれはいかがかしら?」

「えぇ、すごくいい反応ですね。出来れば、筋肉なしで惚れてほしかったのですが、これは路線変更する必要がありそうです」

「ふふっ、応援するわよ。このまま。貴方達がいい感じになれば…………ふふっ。孫の顔が早く見たいわねぇ」

「俺も、早く見せてあげたいです。もちろん、俺と貴方の娘さんとの子をね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その筋肉、隠さないでください!! 桜桃 @sakurannbo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説