第20話 好き

「ならアタシが翔吾くんの彼女になってあげようか?」


 ナナミの提案に「え……?」と間抜けな声を出してしまう。

 コイツ、何言ってんだ?

 俺のことからかってるのかな……?

 

「それ本気で言ってるのか……?」

「うん、アタシは本気だよ」

「……」


 ナナミの顔は真剣だった。

 嘘を言っているようには見えない。

 たぶん、これはガチだ。


「なんで俺の彼女になってくれるんだよ……? お前にメリットないだろ」


 謎だ、なんでナナミは俺の彼女になってくれるんだろう?

 何か裏があるのかな……?


 ふとナナミの言葉を思い出す。


 ――アタシ、本当に翔吾くんのこと好きなの


 高校一年生の頃、俺はナナミに告白された。

 俺もナナミのことが大好きだったから、告白自体は凄く嬉しかったよ。


 けど、あの頃の俺は谷本たにもと穂香ほのかと付き合っていたからナナミの告白は断った。

 本当はナナミと付き合いたかったけど、穂香のこと裏切りたくなかったからな……。

 

 まさか、ナナミはまだ俺のことが好きなのか?

 俺のことが大好きだから彼女になってくれるのかな?


 いや、流石にそれはないか。


 なんてことを思っていると、ナナミが口を開いた。


「アタシさ……今も翔吾くんのことが好きなの」

「え……?」


 え? ちょっと待ってくれ。

 ナナミのヤツ、今も俺のことが好きなの?

 それマジで言ってる……?


 混乱している俺を無視して、ナナミは話を続ける。


「高校一年生の頃、アタシが翔吾くんに告白したの覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ」

「あの頃のアタシは絶対に告白は成功すると思ってたんだ。まぁ君にフラれたけどね……」

「……」

「翔吾くんにフラれたときは本当に辛かった。自殺まで考えたよ……」

「じ、自殺って……流石にそれは嘘だろ?」

「ううん、嘘じゃないよ。あの頃のアタシは本気で自殺も考えてた……。まぁ死ぬのが怖かったから自殺はやめたけどね」


 俺にフラれたのがショックすぎて、ナナミは自殺しようとしていたのか。

 それを知ってゾッと背筋に悪寒が走る。


「翔吾くんのこと頑張って忘れようとしたんだけど、無理だった。やっぱり君のこと諦められないっ」

「……」

「ねぇお願いっ……アタシなんでもするから。恥ずかしいこともしてあげるからアタシの恋人になってくださいっ、お願いします……」


 そっか、ナナミはまだ俺のことが好きなのか。

 だから昨日エッチさせてくれたのかな?


 よく見てみると、ナナミの身体は震えていた。

 また俺にフラれるのが怖いんだろうな……。

 早く告白の返事してあげないと。


「ナナミっ」

「は、はい……」

「そのなんだ……俺もお前のことが好きだ」

「……ぇ……?」


 俺の返事にナナミは目を見開く。

 顔は驚愕に染まっていた。


「翔吾くんもアタシのこと好きなの……?」

「うん、大好きだよ、ナナミ」


 俺が『好き』と言った途端、一瞬で顔を真っ赤にするナナミ。

 耳と首も真っ赤になっていた。

 照れているんだろう。


「本当にアタシのこと好きなの……?」

「ああ、大好きだよ」

「そっか……。ふふっ、嬉しいっ……凄く嬉しいよ、翔吾くんっ」


 ナナミはそう言ってギュッと俺を抱きしめてきた。

 俺もナナミの背中に手を回して、優しく抱き返す。


「ナナミっ……」

「翔吾くんっ……」


 俺たちは顔を近づけて、恋人のようにキスする。


 好きだっ、ナナミのことが大好きだっ。

 ずっとこの子のそばにいたい。

 誰にもこの子を渡したくない。

 この子と結婚したい。

 無数の欲望が蠢く。

 

「ちゅっ……ちゅっ、んっんっ……」


 何度もナナミとキスする。

 チュッチュッと唇を重ねたり、舌を絡め合ったりする。

 一旦、呼吸を整えるために俺たちはそっと唇を離す。

 

 ナナミの顔はトロトロに蕩けていた。

 目の焦点が合っていない。

 完全にスイッチ入ってるな……。


「翔吾くんっ、もう我慢できないよっ……」

「うん、俺も我慢できないっ……」


 我慢できなくなった俺たちはベッドの上で愛を確かめ合った。

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