第9話 ごめんね……

 中村亮太くんと付き合っているのに、翔吾くんのことが好きになってしまった。

 いや、ちょっと違うかな。


 アタシは昔から翔吾くんのことが好きだった。

 けど今までアタシは自分の気持ちに気づいていなかった。


 アタシ以外の女の子とイチャイチャしている翔吾くんを見て、今更自分の気持ちに気づいてしまった。

 遅いっ、あまりにも遅すぎるっ。

 なんで今更自分の気持ちに気づくのかな……。

 本当に意味わかんないっ。


 今のアタシには大切な彼氏がいるけど、やっぱり翔吾くんのこと諦められない。

 誰にも翔吾くんを渡したくない。

 だから、アタシは彼氏と別れることに決めた。


 今の彼氏とは別れて、翔吾くんに告白するつもりなの。

 最低だっ、アタシは最低すぎるっ。


 そんなことしたら亮太くんは絶対にショックを受けるのに……。

 本当は翔吾くんのこと忘れて、亮太くんと付き合い続けたい。

 けどやっぱりそんなの無理だよっ。


 翔吾くんのこと諦められない。

 だからっ……


 スマホを操作して、亮太くんに電話する。

 しばらくして電話に繋がった。


『ん? なんだよ、ナナミ? 何かあったのか?』


 スマホのスピーカーから中村なかむら亮太りょうたくんの声が聞こえてきた。

 この人がアタシの彼氏なの……。


『おーい、ナナミ聞いてるか? なんで俺に電話してきたんだよ? 何か用事があるんだろ?』

「えーっと、その……」


 本当にこれでいいのかな? 

 後悔しないかな?

 やっぱり翔吾くんのことは諦めて、亮太くんと付き合い続けようかな?

 無理だっ。

 そんなこと絶対にできない。

 やっぱり翔吾くんのこと諦められないよ。


 だから、


「亮太くんっ、アタシと別れてくださいっ」


 アタシがそう言うと、亮太くんは『は……?』と間抜けな声を漏らす。

 混乱している様子だった。


「おいおい、何言ってんだよ、ナナミ……その冗談はマジでキツイぞ?」

「ううん、冗談じゃないよ。アタシ本気だから……」

『いやいや、なんでだよっ。なんで急にそんなこと言うんだよっ。意味わかんねぇ……。ナナミはもう俺のこと好きじゃないのか?』

「ううん、亮太くんのことは好きだよ……」


 今も亮太くんのことは好きだ。

 彼のこと愛してる。


『ほ、本当か? 本当に俺のこと好きなのか……?』

「うん……好きっ、亮太くんのことは二番目に大好きだよ」

『に、二番目……?』

「……」


 さっきも言ったけど、アタシは亮太くんのことが好きだ。

 だから彼と恋人になったの。


 けど今更自分の本当の気持ちに気づいてしまった。

 アタシは翔吾くんのことが好きだ。

 彼を世界で一番愛している。


 翔吾くんのことが好きだと自覚した途端、亮太くんのことがどうでもよくなってしまった。

 

『二番目に俺のことが好きってどういうことだよ……? まさか、他に好きな人がいるのか?』

「うん……最近好きな人ができたんだ。アタシ、その人と恋人になりたいのっ」

『……』

「だからアタシと別れてくださいっ」


 アタシの言葉に亮太くんは沈黙する。

 たぶん、アタシにフラれて亮太くんはショックを受けているんだろう。

 

 こうなるって分かってた……。

 亮太くんがショックを受けると分かっていたのに、アタシは自分の恋を優先してしまった。

 今のアタシは彼氏を傷つけて、他の男の子と幸せになろうとしているんだ。

 最低だっ、アタシは本当に最低だ。


 自己嫌悪に陥ってしまう。

 けど、やっぱり翔吾くんのこと諦められないの。

 ごめんね、亮太くん。

 本当にごめんね……。


『えーっと、つまり最近好きになった人と恋人になりたいから二番目の俺と別れたいってことか?』

「うん、それで合ってる……」

『なんだよそれっ。なんなんだよそれはっ!! お前っ、最低すぎるだろっ! なんでそんな酷いことするんだよっ!』


 亮太くんの言葉にチクチクと胸が痛む。


 ごめんね、本当にごめんね、亮太くん……。


『俺、本気だったんだぞ? 結婚まで考えてたんだぞ? なのに、どうして他の男を好きになったんだよっ。どうして俺のこと一番好きになってくれないんだよっ』

「ごめんなさいっ……本当にごめんなさいっ」

『ちっ……もういいよっ!! ナナミのことなんか大嫌いだっ!! もう二度と俺に話しかけるなよっ!!』


 亮太くんはそう言って電話を切った。

 スマホのスピーカーから亮太くんの声が聞こえなくなり、部屋中が静寂に包まれる。

 亮太くんに嫌われちゃった。

 あはは……そりゃそうだよね。

 あんな酷いことしたら誰でも嫌いになっちゃうよね。


 亮太くん、ごめんね。

 本当にごめんねっ……。


 

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