20話目

 しばし二人を沈黙が包み込んだ。太谷大治は視線を座り込んでいる名倉京子の足元に向けた。それに気づいた名倉京子は仕方なさそうに右足のズボンを捲くった。そこには足が無かった。右膝の下にくっついているソケットがあり、それから伸びている義足の継ぎ手が無惨にも折れていた。 

「何よ、大男。人の身体的特徴をあげつらうのは失礼よ。」

 最早名倉の論理は破綻していたが、興奮している彼女はそれに気付かない。そして続けた。

「仕方ないじゃない、神様が一本付け忘れたんだから。それでも私は負けなかった。足一本でも挫けなかった。大学も出た、大学院で博士号も取った。今回はプロジェクトのサブリーダーにまで登りつめた。それなのに、こんなところで・・・・・・。」

 とうとう名倉は号泣しだした。

「あたしがいなきゃ、始まらないんだから、このプロジェクト発案から企画、設計、プログラミングまでほとんどあたしのプロジェクトなのに、ひどい。」

 名倉の慟哭とも呼ぶべき怒りと悲しみは留まるところを知らなかった。

「みんなひどい、ひどい、こんなところに置いていくなんて。あたしが今日のこの日をどれだけ楽しみにしてたか知ってたくせに。」

 ぐちゃぐちゃになった顔を太谷が差し出したタオルで拭い、一息ついた名倉京子は絞り出すような声で言った。

「絶対に許さない。こうなったら今日のプロジェクト中止させてやる。」

 なんだか恐ろしいことを言い出した名倉を見て、太谷は不思議そうに聞いてみた。

「プロジェクト順延出来るんですか?それなら良かったですね、どうやるんです?」

 名倉は不気味な微笑みを浮かべて言った。

「・・・・・・呪ってやる。」

 彼女は本当に科学者なのだろうか?太谷の頭に疑問が生じた。

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