16話目
太谷大治は心も体も軽やかに下山を始めた。山小屋の経営は安定しており、太谷への遠慮以外に荷揚げを断る理由もあるまい。そう考えた太谷は更に自分を鍛え上げ、小寺夫人の心配を取り除こうと意気揚々としていた。しばらく下山していると太谷の無線が呼び出し音を発した。
なんだろう?
太谷が訝しげに無線に答えると、麓の登山組合からの連絡であった。どうやら馬返しの手前で、一人登山脱落者が出たらしい。小寺夫人の話していた学者さんたち御一行のようだ。他のメンバーは登らなくてはならないらしく、脱落者をそこに残すことにしたようだ。ちょうど下山中の太谷脱落者の救助要請が入ったわけだ。
「いいですよ、馬返しまであともう少しですから。」
太谷は気楽に返事をした。それにしても馬返し手前で脱落とは、その程度の体力しかないのならそれ以上上がらなくて正解だ。山での無理は禁物だ。無線を受けてすぐに先程連絡のあった脱落者が出たパーティーとすれ違った。ガイド以外みんな青い顔して登っている。登山組合のガイドは苦笑いを浮かべながら何やら四角い大きな箱を担がされている。ガイドに見える疲労は荷物の重さというよりは同行メンバーの体たらくにあるようだ。
おいおい、大丈夫か学者さんたち。
そんな青い顔した人たちに脱落した仲間をお願いしますとなかには涙を浮かべるメンバーもいて太谷は面食らった。しかしながら太谷の巨体はメンバーの心配を払拭するほど巨大であり、学者さんご一行はヒイヒイ言いながら登山を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます