15話目

「本当に助かったわ、太谷くん。」

 朝早く山荘に荷を上げてくれた太谷大治を、小寺夫人はいつものようにコーヒーで労った。

「いえいえ、それにしても珍しいですね。まだシーズン入ったばかりで団体さんが入るなんて。」

 太谷は不思議そうに夫人に訪ねた。

「なんか研究チームの人たちが来るみたいなの、人が多いシーズンだと困るみたいで。」

「学者さんが山登りですか?ガイドは大変でしょうね。」

 太谷は笑いながら言った。

「でもこれからは太谷くんに迷惑をかけることも少なくなるかも知れないわ。」

 太谷は夫人の言葉を聞いて戸惑った。

「迷惑なんてそんな、まさか、山小屋閉めるつもりですか?」

 夫人は慌てて否定した。それを聞いて安心した太谷は自分の胸元を指差した。

「俺の体はまだまだ頑丈、先輩が叩き込んでくれた筋金も健在です。安心してこの太谷運送をご利用ください。」

 どこまでも脳天気な太谷に夫人は言葉を失った。

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