8話目

 色んな意味で逞しさを増した太谷大治にある日小寺先輩は意を決して話した。

「俺、山小屋を経営しようと思うんだ。」

 小寺先輩の決意表明に、太谷は晴れやかな笑顔で賛同してくれた。いや、小寺先輩ははなから反対されるとは思っていなかったが。彼らの住む町には日本百名山にも名を連ねる山を有する連峰があり、その連峰制覇を試みる者たちにとってベースキャンプとなる山小屋があった。そのオーナーが高齢となり、維持するのが難しくなった山小屋を小寺先輩に譲渡したいとの話があった。小寺夫人はこの提案に両手を挙げて賛成した。すでに子どもたちは自立しており、小寺先輩と二人でのんびり過ごしたいと思っていた夫人は大喜びであった。こうして小寺先輩はこの頃アウトドア一色になっていた店を辞めて夫人と一緒に山小屋のオーナーとなり、太谷ははアウトドアショップの店員をしながら、物資を小寺先輩の山小屋に運び入れる、いわゆる歩荷となった。歩荷は経験なく簡単にできる仕事ではなく、山小屋の前オーナーから指導を二人で受けた。しかし前オーナーはとくに太谷の体つきを見て、教えることは最低限で良いだろうと安心していた。

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