第12話 実戦に必要な筋肉
ジューネスティーンは、シュレイノリアの指摘を受けて実戦で使う場合の事を考え始めていた。
「実際に戦うなら、崩そうとした時、相手にも力が入った事が分かるはずだから、その瞬間に防御するだろうな」
体を崩そうとしたら、相手に何らかの力を加えることになる。
その瞬間、相手は対応するための反応を示す事を、シュレイノリアは指摘してきた。
「こんな、投げ込みの練習なら、非力な私でもアンジュ程度なら簡単に投げられる。でも、これが、試合となったら、私はアンジュを投げられるかどうか分からない。きっと、力と力、技と技の勝負の試合となったら、私は投げる事は出来ないだろう」
ジューネスティーンは、シュレイノリアの指摘を受けて、改めてアンジュリーンの体型を確認した。
魔法職のシュレイノリアと、弓を使うアンジュリーンの2人は、身長の差は殆どないが、弓を使っていた事もだろうが、冒険者として実戦経験の多いアンジュリーンなので、7年前に転移してきたシュレイノリアとは経験が違う事もあった。
アンジュリーンと体型を比べたら、身長は同じでも、シュレイノリアより、胸板も厚く手足も太そうなのは、衣類の上からでも分かる。
今は、受け手と攻めに分かれての練習だが、これが、お互いに競い合う試合形式になってしまったら、地力の違いが出てしまう。
「ジュネス。組み合った時、技を掛ける前の崩しについて、実戦での対策は考えているのか?」
その指摘を受けると、ジューネスティーンは困ったような表情をした。
「あの動きは、引き付けるように腕を動かしていただろう。腕と胸の筋肉をつけて、腕だけで自分の体重を支えられるくらいになったらどうだ? 片腕で自分の体重を支えられれば理想だろうが、腕の筋肉が、そんなに付くとは思えない。だが、剣を振るにしても、弓を射るにしても筋力は必要だ」
シュレイノリアの説明を聞いて、納得はできるのだが、その方法が思い当たらない。
すると、シュレイノリアは、両手を前に出してきた。
「おい、ジュネス。私に技をかけてみろ」
ジューネスティーンは、恐る恐るシュレイノリアの腕と襟を掴むと、そのまま崩しに入ろうとした。
しかし、その瞬間、シュレイノリアは、脇を締めるようにして、両手首を外側に返すようにして力を入れてきた。
ジューネスティーンは、背中に担ぐことができず、シュレイノリアの体と隙間が空いた状態となって、腰だけ相手の側に寄ったので、くの字に曲がってしまい、技の体勢に入れずにいた。
「分かったか、ジュネス。実際の戦いでは、相手も抵抗してくるんだ。その抵抗する力を打ち消す事ができなければ、前衛のお前でも魔法職の私に技を掛けることはできない」
ジューネスティーンは、今のような投げ込みの練習なら、技を掛けて投げることは可能だが、実戦において抵抗する相手の重心を崩すとなれば、その抵抗する力に打ち勝つ必要がある。
それは、タイミングにもよるだろうが、相手の一瞬の隙を突いて崩すというのは、経験がものをいうだろうし、その僅かなタイミングに合わせて力を加える事になる。
そして、力が弱ければ、そのタイミングに合わせて力を加えたとしても崩しきれない可能性が高い。
そう考えれば、腕の力をつけて、少ない隙を作ったタイミングに一気に引き付けて相手を崩す必要がある。
「なるほど、そうなるな」
ジューネスティーンは、納得するような表情をした。
実戦を考えたら、投げ込みの練習のように投げることは出来ない事は明白である。
「ジュネス! 格闘技に一番必要な筋力は何処か理解できたか?」
シュレイノリアは質問したが、その答えを知っていて聞いたようだ。
「ああ、分かったよ」
シュレイノリアは、その答えに満足していた。
「だったら、その対策も気がついたか?」
その質問に対してジューネスティーンは、ニヤリと笑った。
「そうだな」
そう言うと、ジューネスティーンは、投げる時に行う動作である腕の引き付ける動作を片腕毎に行った。
腕を持って引く動作を行う時の動作には、脇を締める動作と、肘を曲げて腕を自分の体に近づけていた。
その動作を確認した。
「引き付ける事が重要になるなら良い手がある」
その言葉に、シュレイノリアは満足そうに聞いていた。
そして、ジューネスティーンは、格闘技を行うその部屋の中を見まわした。
格闘技を行う場所であるため、壁は平面になっており、ぶつかっても安全なようになっていた。
その壁に何かを取り付けるという事は、ぶつかった時に怪我をする可能性が出てくるので、人の手の届く範囲に突起物を付ける事は出来ない。
すると、ジューネスティーンは天井を見た。
「上るか」
一言ボヤいた。
その様子をシュレイノリアは、心地良さそうに見ていた。
「ああ、それが一番良い練習になると思うぞ」
シュレイノリアは、ジューネスティーンのボヤいた一言で、全てが理解できたのだ。
「だったら、この後は相談だな」
「ああ、そうなる」
2人は、そう言うと教官を見た。
教官は、他の生徒達を見ながら指示を与えていた。
ジューネスティーンは、教官の方に向かって歩いて行くと、その後をシュレイノリアが付いていった。
「教官! お願いがあります」
練習中に声をかけてきたジューネスティーンに対して、面白くなさそうな表情で迎えた。
練習中だったのに、練習もせずにお願いがあると言ってきた事が、少し気に食わなかったようだ。
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