第10話 シュレイノリアとアンジュリーン
ジューネスティーンは、アリアリーシャから格闘技で人を投げるにあたっての見解を聞いていた。
技に入る前の崩しによって、相手の重心の移動について考えていたのだが、アリアリーシャは、自分の重心より相手の重心が高くなることで投げれると言ってくれた事から、自分の考えていた以外の部分を補填する事ができた。
そして、自分の考えとアリアリーシャの考えをまとめていると、ドスンという音がしたので、2人は、その方向を見た。
そこには、シュレイノリアが、アンジュリーンを床に投げ飛ばしたところだった。
シュレイノリアは、投げた余韻に浸る様子で、投げ飛ばしたアンジュリーンを見ていた。
一方、アンジュリーンは、腹に力を入れる事で、シュレイノリアの投げに耐えられると思っていたのに投げられてしまった事が不服そうに見ると、直ぐに立ち上がり、また、同じように投げ込みを受ける体勢をとった。
その顔には、少しムッとしたような表情だった事からも、アンジュリーンにとっては、投げ込みの練習だったとしても、自分の意に反して魔法職であるシュレイノリアに投げられたことが面白くなかったようだ。
シュレイノリアは、立ち上がったアンジュリーンに組むとアンジュリーンは、今まで通り、上半身の力を抜いてお腹に力を入れるようにしていた。
今まで、アリアリーシャに言われた通りに、お腹に力を入れたことでシュレイノリアが投げられずにいた事から、同じように立つが、今度は今まで以上に力が入ったようだ。
「あら、アンジュったら、今、シュレに投げられた事が分からないような顔をしてたわ」
アリアリーシャは、投げた後のシュレイノリアの様子から、投げれた理由を理解したようだが、その理由についてアンジュリーンには理解できていないと判断したようだ。
その事が、少し面白いと思い、思わず声に出てしまった。
「ジュネス。見てなさい、シュレは、また、投げるわよ」
ジューネスティーンは、解説の意味がよく分からなかったようだが、アリアリーシャが自信がありそうな表情だったことから、質問する事もなく、シュレイノリアの投げ込みの様子を見た。
すると、シュレイノリアは、アンジュリーンの腕と襟を持つと、軽く崩すようにしつつ、体を合わせると、3回目には背負って、また、投げ飛ばしていた。
アンジュリーンは、今度は飛ばされまいと、お腹に今まで以上に力を入れているようだったのだが、そんな事は関係無かったようだ。
一方、投げ飛ばされたアンジュリーンは、信じられないような表情をしていた。
突然、シュレイノリアが投げられるようになった事が理解できずにいた。
その様子をシュレイノリアは、納得したような表情をしつつ、手を離して体を戻すのだが、徐々に、どうだと言うような表情をした。
立ち上がったアンジュリーンには、シュレイノリアの、その表情が気に食わなかったのかムッとした。
「ちょっと、シュレ。今度は私が投げる番よ。さっき、アリーシャに言われたように、お腹にだけ、力を入れて、受けてね」
「わかった」
そう言うと、シュレイノリアが受けに回ったので、アンジュリーンは、シュレイノリアの腕を取って、担いで投げようとしたが、全く投げられる様子は無く、必死になって投げようとしていたが投げられずにいた。
投げる事ができたシュレイノリアには、そのことが満足だと言わんばかりの優越感を持ったような表情が窺えていた。
そして、アンジュリーンは、何度もシュレイノリアを投げようとするのだが、全く歯が立たず投げるまでに至らなかった。
その様子をジューネスティーンとアリアリーシャが、少し離れたところから見ていた。
アリアリーシャは、2人の様子を納得したような表情で見ていた。
「ねえ、ジュネス。シュレが投げた時の事は見ていた?」
「ああ」
ジューネスティーンは、今の様子を見たまま、考えるような表情で答えたので、アリアリーシャは確認するようにジューネスティーンを覗き込んだ。
「今のアンジュとの違いって分かる?」
「そうだな。今のアンジュは、ただ、技をかけることだけしか考えてないみたいだから、投げるだけの形になっているだけだった。シュレの重心を崩せてないし、それに、今聞いた腰の位置も高いからな。あれだと、アリーシャ姐さんの言った、お腹に力を入れるだけで受けられてしまうだろう」
ジューネスティーンの回答は、アリアリーシャの考える事と同じだったのか、表情が少し緩んだ。
「そうなのよ。さっき、シュレが投げた時って、ちゃんと崩しができていて、尚且つ、膝を曲げることで、アンジュの腰の位置より低く入ったのよ。あれだと、お腹に力を入れて下半身だけの力じゃ防ぎきれないわ」
ジューネスティーンは、シュレイノリアが低くなったと思っただけだったが、アリアリーシャの解説で膝を曲げたと聞いて、なるほどなと思ったようだ。
腰を相手より低くするのであれば、膝を曲げるか足を広げるしかない。
投げるにあたり、足を広げるだけだと、膝を伸ばす事ができないので、腰より上の力と体の使い方だけになってしまうが、膝を曲げて入ると膝の伸びる力も利用する事になるので、体全体で投げる事になる。
ただ、腰を低くするだけなら、足を受け手の両足より広く開いただけでも可能だろうが、体全体の力を使えなくなる。
人を小さな力で投げようと思ったら、体全体の力を利用する事が必要となる。
その事に、シュレイノリアは、気がついたようだが、アンジュリーンには、まだ、その事に気が付いていなかった事が、2人の違いとなって現れた。
その対照的な2人を見て、ジューネスティーンの格闘技への考えは更に深まったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます