第9話 アリアリーシャの解説


 女子達3人は、シュレイノリアが、アンジュリーンを練習台として投げる練習をして、それを、アリアリーシャが指導するような構図になっていた。


 さっきまで、シュレイノリアが投げていたのだが、今は、投げる事ができずにいた。


 ジューネスティーンは、その様子を近くで見ようと2人の横に立って不思議そうにみていた。


「なあ、アンジュ。何かしているのか?」


 アンジュリーンは、話しかけられる直前にジューネスティーンに気がついたせいなのか、少しオドオドしていた。


「アリーシャに言われて、お腹に力を入れているだけ、肩と腕は、シュレの思うがままにさせているだけよ」


 アンジュリーンは、少し頬を赤くしつつ答えると、ジューネスティーンは、考えるような表情をした。


 その間も、シュレイノリアは、アンジュリーンに技を掛けているのだが、受け手がお腹に力を入れた事で投げる事ができず、必死な様子で技をかけるが、ダメだと思うと戻って、また、技をかけていた。


 アンジュリーンが、お腹に力を入れる事で、シュレイノリアは投げる形にはなるのだが、崩す力が足りなく重心を動かしきれていない状態で、ただ、体を回転させていただけ、無駄に力を入れているだけで投げるまでには至ってなかった。


 そんな2人を見た後に、ジューネスティーンは、アリアリーシャのそばに行った。


「なあ、アンジュにお腹に力を入れさせたのは何でなんだ?」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアが投げる事ができない理由について気になった。


 そして、その理由がお腹に力を入れたからだろう事は分かったようだが、その理由についてアリアリーシャの見解を詳しく知りたいと思ったのだ。


「ああ、あれねぇ。 シュレは、魔法職だからか腕の力が弱いのよぉ。 今の腕を持って投げる方法ってぇ、重心を移動させるのだけどぉ、あの2人は身長も腰の高さも変わりがないですからぁ、受ける方が腕に力を入れない事でぇ、形に入りやすいだろうしぃ、お腹に力を入れられるからぁ、負荷が掛かることで筋力アップにつながる、かな」


 アリアリーシャは、シュレイノリアの様子から欠点を見つけていた。


 その欠点の克服のためにアンジュリーンにお腹に力を入れさせることにして、シュレイノリアに技を掛けさせていた。


 ただ、筋力アップについては、アリアリーシャも期待的な思いしかない。


「ほら、アンジュはぁ、弓を使うでしょ。 まだ、子供っぽいのはエルフの成長の遅さだけどぉ、数十年間、弓を使っていた事もあってぇ、シュレより筋肉は有るけどねぇ。 ……」


 そして、アンジュリーンについても詳しく解説してくるのだが、最後の方は、声が残念感を漂わせていた。


「筋力は有るけど?」


 ジューネスティーンは、アリアリーシャの後の言葉が気になった。


「うーん。 アンジュってぇ、案外、要領が悪そうなのよぉ。 さっきぃ、アンジュを投げた時に気がついたのだけどぉ、腰の位置が結構重要みたいなのよぉ」


 それを聞いて、ジューネスティーンは、話に興味を示したようだ。


「私は、身長が低いでしょ。だからぁ、アンジュを投げた時に気が付いたのよぉ。ほら」


 そう言うと、投げる時の格好をして、腰を少し曲げた。


「この格好をするとぉ、直ぐにアンジュの腰より低くなってしまうのよぉ。でもぉ、アンジュは私の身長に合わせるではなくてぇ、ただ、技を掛けてきているだけだったのよぉ。だからアンジュが技をかけた時って腰の位置が私の腰より上だったのぉ」


 アリアリーシャは、ジューネスティーンに説明することが嬉しそうな表情をした。


 それは、自分が気がついた内容を伝える事で、なんだか自分が優位になったような気分になっていた。


 相手を背中に乗せて投げるのであれば、相手の腰を自分の腰に乗せる必要があるので、30センチ低いアリアリーシャは、そのままの状態で技を掛けるとアンジュリーンは、アリアリーシャの腰に自分の腰を乗せてしまう事になる。


「だからアンジュはぁ、私の事を投げにくそうにしていたのよぉ。その時に私とアンジュの違いについて考えるとぉ、腰の位置の違いで体が背中に乗る感じが違うと思ったのよぉ。だから私は簡単に投げることができたとわかったのよぉ」


 アリアリーシャは、そこまで言うと、誇らしげに胸をそらして腰に手を置いていた。


 その話を聞くと、ジューネスティーンは、アンジュリーンを投げようとしているシュレイノリアを見ると、腰の位置を下げるような事はせずに、ただ、技に入っているだけに見えた。


「あの2人と私だとぉ、この技は身長が高い人が身長の低い人を投げるには不利な技みたいよねぇ。でも、基本的な技なのかなぁ」


 アリアリーシャは考えるような表情をしつつ話すと、その話をジューネスティーンは、興味をそそったようだ。


「あの2人は、身長も大差無いでしょ。でも、腕を取って投げようと思ったらぁ、投げる方は投げられる方よりぃ、腰の位置を少し低い位置になるようにしないとぉ、上に引き上げるようになるから投げる事はできないのぉ。だからぁ、同じような身長の2人の方が組んで技を掛けたらぁ、きっと気がつくと思うのよぉ」


 技をかけているシュレイノリアは、アリアリーシャの指摘する通り腰の位置が高かった結果、アンジュリーンを背中に背負うためには、全体重を持ち上げるだけの力が必要になる。


 しかし、身長差のほとんど無いアンジュリーンとなら、軽く腰を落とすように膝を曲げて、受ける側の腰の位置より下になれば、体を崩した体勢の受け側を背負うのは簡単になる。


 背中を合わせた状態で腰を前に倒すだけで、受けている側は、相手の腰より重心が上になってしまっているので、技を掛ける相手の背中に乗せられただけで投げる事が可能となる。


 アリアリーシャは、自分とアンジュリーンの身長差から、お互いの技の掛け合いを行って、アンジュリーンが投げにくそうにしていたことから、その事に気がついた。


 そして、ジューネスティーンに聞かれて答えたのだ。




 ただ、ジューネスティーンとしたら、アリアリーシャの語尾を伸ばす話し方は、少し違和感があったようだ。


 身長が低く、細身の体付きであり、遠目に見たら若く見えるが、実際にはジューネスティーンより9歳上になり、成長の遅いエルフなら、ジューネスティーン達3人と見た目の差は見受けられないが、ウサギの亜人であるアリアリーシャは、体型的には若そうに見えるが、顔貌は年相応の顔付きをしている。


 顔だけを見たら、アリアリーシャだけ周囲から年上に見られてしまう事が気になっていたことから、その差を埋めたいと思ったのか、声と喋り方で何とか、その差を埋めようと思っていたのだ。

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