第8話 カミュルイアン
レィオーンパードとジューネスティーンの2人が組んで、格闘技の研究をしていると、エルフのカミュルイアンが寄ってきた。
「オイラ、あぶれてしまった」
そう言うと、一緒に練習させて欲しそうにした。
しかし、ジューネスティーンは、もう1人余っていることに気がついた。
「あそこに、シュレが余っていると思うけど」
それを聞いて、カミュルイアンは、ゾッとしたような表情をした。
「えっ、あっ、えぇーっ!」
そう言うと、黙ってしまった。
カミュルイアンは、自分から積極的に話をするような男子ではなく、今まで、何かあればアンジュリーンの後ろに隠れて黙っていた。
そんなカミュルイアンなので、パーティーを組んだ仲間ではあっても、直ぐ積極的にパーティー内の女子に声をかけられずにいた。
そんな事もあって、シュレイノリアが1人にしていたらかといって、自分から練習相手になってくれと頼みに行くのは、ハードルが高すぎた。
そんな中、教官にヤラレっぱなしだったジューネスティーンとレィオーンパードが、壁際で2人で組んでいたのを見て、異性のシュレイノリアに声をかけるより、パーティーメンバーであり同性のジューネスティーン達の方がハードルが低かったので声を掛けてきた。
しかし、そんなカミュルイアンの気持ちを気にする事なく、ジューネスティーンは、シュレイノリアと組むように言ってきたので困惑してしまっていた。
「いや、ちょっと」
カミュルイアンは、やっとの思いで声を発した。
「にいちゃん。それだったら、シュレ姉ちゃん達と一緒に6人で練習したらいいんじゃないの? ほら、あのウサギの亜人のアリアリーシャさんは、エルフのアンジュリーンさんを投げていたよ。1人で考えるより一緒に考えた方がいいんじゃないの?」
ジューネスティーンとカミュルイアンが話をしている間にレィオーンパードは、メンバーになった女子達の方を見ていた。
カミュルアンが、ジューネスティーンと話を始めたら、シュレイノリアは、アンジュリーンとアリアリーシャの方に向かって行ってしまったのを見ていた。
「ああ、それもいいかもな」
ジューネスティーンは、女子達3人も集まっていたので、レィオーンパードの案に同意すると、2人に移動を告げ女子達の方に移動を始めた。
カミュルイアンは、少し嫌そうな表情をしつつ、ジューネスティーンと一緒に歩いているレィオーンパードのあとを隠れるように追いかけていた。
カミュルイアンとアンジュリーンは、双子のエルフだろうと言われていたのは、男女の違いはあるが、顔貌が良く似ている事から、2人は二卵性双子だったのだろうと言われていた。
それは、子供を授かりにくいエルフでは双子が生まれるなんて事は奇跡に近いので、そんな中、男女の二卵性双生児というのは、極めて稀な例と言える。
しかし、アンジュリーンとカミュルイアンは、一般的なエルフ属とは少し様子が違っていた。
2人は転移者であって、しかも、2人同時に転移してきた。
転移前の世界では、そんな事もあるのだろうと囁かれたようだが、それ以上の追求はされてない。
ギルドとしても転移前の世界を調査する術も無いので、2人が双子かどうかの真相をそれ以上追求する事は無かった。
顔貌が似ている事と、2人同時に転移してきた事から、ギルドとしては2人が双子だろう、そして、珍しい二卵性双生児のエルフと言われただけで終わっていた。
そして、2人の転移は、今より31年前になるので、現在の年齢は41歳となるが、エルフの成長の遅さから、17歳のジューネスティーンより、アンジュリーンもカミュルイアンも僅かだが若く見えた。
しかし、3年前に転移してきたレィオーンパードと比べたら、カミュルイアンは少し歳上に見えるのかもしれないが、それも卒業する頃には、同じか逆転してしまう事になる。
アンジュリーンとカミュルイアンは、男女の違いはあっても顔貌は似ているが性格は異なっていた。
強気な性格のアンジュリーンに対して、カミュルイアンは大人しく自分から行動したり意見を言ったりというような性格では無かった。
そして、授業の相手を見つけるにしても、声を掛けにくかった事もあって、余ってしまい、そして、もう1人余っていたシュレイノリアに声を掛けることもできなかった。
その事がアンジュリーンに知られていたらと思うと、目が合った瞬間に突っ込まれる可能性を気にしていた。
そして、本来なら体の小さなレィオーンパードの後ろに行くのではなく、少しでも体の大きいジューネスティーンの後ろの方が良いはずなのに、カミュルイアンは、そうはせずに、あえてレィオーンパードの後ろに付くようにしていた。
それは、カミュルイアンが、アンジュリーンの視線の先にジューネスティーンがあるように思えたからなのだ。
初めて出会った時から、アンジュリーンの視線が、ジューネスティーンを捉えている事に気がついていたカミュルイアンなら、その後ろに隠れたとしても、直ぐに見つかるのではないかと思えた。
そして、相手を見つけられず、余っていたシュレイノリアに声を掛ける事もできずにいた事が、後ろめたいと思えた事もあり、可能な限りアンジュリーンの視線から外れようと思っていた。
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