第6話 教官の解説


 ジューネスティーンとレィオーンパードが、完璧になす術なく倒された事について、生徒達には引き気味に見ていた。


 そして、その圧倒的な力差から、次の挑戦者は名乗り出る事はなかったので、教官は生徒の1人を呼んで、技に対する解説を始めた。


 殴る格好をさせると、その時の重心の位置を説明して、殴る力を利用するように拳をその方向に引っ張るようにすると、簡単に重心を前に出せる事を説明した。


 そして、殴り掛かる格好をした生徒は、拳を引かれた事によって、つま先立ちになった状態になると、更に生徒の拳を前に引くと、生徒は前に一歩出て倒れるのを防いだ。


 しかし、教官は、その足の前に自分の足を置くようにして、前に出そうとしたその一歩を妨害したので、その生徒はツンのめるように前に飛び出して行った。


 重心を移動させられる時に、倒れまいとして前に出たところに障害物を置くと倒れる事になるから、それを利用して投げるのだという事を説明した。


 そんな説明をジューネスティーンは、食い入るように聞いていると、大の字になっていたレィオーンパードが、肘を床につけるように体を起こした。


「おい、レオン。俺達が投げられた事について解説しているから、お前も聞いておけ!」


 その言葉を聞くと、レィオーンパードも教官の説明を聞こうと、視線を向けながら上体を起こして胡座をかいた。


「せっかく、教えてくれるんだから、モノにするさ」


 それを聞いて、レィオーンパードも悔しかったのだろうと分かった。


 自分が投げられた事に対して、その理由が理解できれば対策を考える事も可能だとレィオーンパードも理解していたので、真剣に教官の解説に聞き入った。


 ジューネスティーンは、安心した表情をすると立ち上がり、教官の話を聞きつつ、自分の重心をつま先側に持って行ったり、後ろに、右に、左にと動かし、その都度、倒れそうになると足を一歩出して倒れないようにする。


 体の重心移動を利用し相手を投げ飛ばす、その事を自分の体で体現していた。


「なるほど、こうやって相手の重心を動かしてしまったら、簡単に投げられるのか」


 ジューネスティーンとしたら、投げられっぱなしになった悔しさもあったのか、自分の態勢が投げらやすくなった事を注目したようだ。




 人を投げようと思ったら、ただ、技をかけただけでは投げることはできない。


 投げる前段階として、相手の態勢を崩して投げやすい状態にする必要がある。


 素人と玄人の戦いなら、そんな手順を追う必要はないが、ジューネスティーンが倒そうとしている教官は、格闘技の専門家であるので、その一瞬の隙を突いて態勢を崩さなければ、簡単に投げる事ができない。


 そのために投げる前の崩しはとても重要になる。


 むしろ崩されなければ投げる事はできない。


 そんな中、ジューネスティーンは、技を掛ける方ではなく、技を掛けられた方に注力し、相手がどんな体勢になったら技が掛けやすいかを考えていた。


 格闘技において、どんなに強い技があったとしても、技に入る前の動作で相手を崩せてなければ、その技で投げ飛ばすなど不可能である。


 ジューネスティーンは、その事に気がついたようだ。


「にいちゃん、あの説明の内容なんだけど、あれって、相手が殴ってきた時には有効だけど、殴ってこなかったらどうなるの?」


「うん、そうだな。あの説明は、相手が殴ってきた時には有効だが、あの教官が簡単に殴ってくるとは思えないな」


 レィオーンパードの質問は、ジューネスティーンも同じように思ったようだ。


「それに、一般的な殴る行為にしたって踏み込んで殴るとは限らないだろうから、牽制のために腕だけを出す殴り方だってあるからな」


 ジューネスティーンは、殴る方法について考えて話すと、レィオーンパードも納得したような表情をした。


「そうだよね。力の入ったパンチは、体全体で力を出すけど、腕の力を抜いて、スピード重視のパンチだってあるから、それだと、力を利用しにくいかもしれないね」


 その話をジューネスティーンは、面白そうに聞いていた。


 それは、自分の考えている事をレィオーンパードが言葉にしてきたので、嬉しかったようだ。


「なあ、レオン。もう、立てるか?」


「うん。もう、大丈夫」


 レィオーンパードは、答えると立ち上がった。


「レオン。ちょっと、さっきの時の事を確認したいから、相手をしてくれるか?」


「うん」


 そう言うと、ジューネスティーンは、教官に投げられた時の事を思い出すように、自分の持たれた場所を持ち投げられた時のようにレィオーンパードを動かし始めた。


「レオン。投げないけど、持ち上げてもいいか?」


「えっ! う、うん。本当に投げないでよ」


 レィオーンパードは、不安そうに答えた。


 その答えを聞くとジューネスティーンは、投げられた時の事を思い出すようにゆっくりと体を回してレィオーンパードに背負うようにし、そして腰を曲げっるようにすると、レィオーンパードは、ジューネスティーンの背中に乗った。


 だが、そこから持ち上げるまでには至らなかった。


「にいちゃん。俺の足は、まだ、床に残っているよ」


 ジューネスティーンは腰を曲げるだけで持ち上がるかと思ったようだが、実際にはレィオーンパードを持ち上げるには至らなかったのだ。


「そうだな。 これだと、投げるまでには至らないな」


 原理は理解できたようだが、実際に行う事は、まだ、できないようだった。


「にいちゃん。説明は、まだ、続いているみたいだから、全部聞いてからの方がいいんじゃないの」


 ジューネスティーンも、同じように考えていた。


「そうだな。せっかくだから、説明を聞いておこう」


 そういうと、2人は教官の話に耳を傾けた。

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