第2話 模範試合の相手はジューネスティーン
生徒達は、全員がジューネスティーンを見た。
ジューネスティーンとしたら、入学早々、問題を起こしたいとは思っていなかったのだが、周囲は、そんなジューネスティーンの思惑とは違い、魔法職であるシュレイノリアと常に一緒に行動していることが気に食わなかった。
その腹いせを、この屈強な教官の模範試合の相手に差し出し、自分達の鬱憤を晴らそうと思っているのだ。
入学時に組まれたパーティーは、卒業後も冒険者パーティーとして活動する事が多く、入学時に魔法職をパーティーに組み込むかは、卒業後の活動に大きく影響を及ぼす事もあり非常に重要な部分でもあった。
ギルドのカリキュラムの中には、魔法の授業も存在しており、ごく稀に、その授業を受けて魔法を覚えてしまう冒険者も居るのだが、そんな奇跡的な確率に期待するより魔法職が入学しているのであれば、そのままパーティーを組んだ方が手っ取り早い。
だが、シュレイノリアに声を掛けた生徒達は、その都度ジューネスティーンの後ろに隠れてしまった事から話もできずにいた。
声を掛けた生徒の前に、ジューネスティーンが出るようにシュレイノリアは隠れていたので、声を掛けた生徒達は、ジューネスティーンに対して快く思っていなかった事もあり、その腹いせとして、格闘技の授業の生贄として教官に捧げたのだ。
ジューネスティーンは、生徒達から嫉妬の眼差しを向けられていた。
教官は、生徒達の視線の先にいるジューネスティーンを見た。
「おい、お前、……。ああ、今年の特待生か」
教官としてもジューネスティーンの事を知っていたが、生徒達とは違い特待生になった経緯について報告を受けていたので、もう少し詳しい事を知っていた。
教官は、ジューネスティーンを確認すると、一緒に居たと思われるシュレイノリアを見て何かを考えるような表情をしたが、直ぐにジューネスティーンに視線を戻した。
シュレイノリアの魔法については、一般の魔法職とは比べ物にならない程の魔法力を有していると報告もあり、魔法担当の教官がシュレイノリアの魔法を確認していた。
その魔法担当の教官からの報告を聞いても、特待生として扱っても問題無いと思えたのだが、ジューネスティーンの方の報告は微妙だった。
作った剣は、斬れ味が良い細身の曲剣だったので、そんな細身の剣など、直ぐに折れてしまう可能性が高いと思えるのだ。
その剣は、一般的な剣に比べたら遥かに軽く使い勝手が良さそうだが、ジューネスティーンのような子供向けの剣としてなら、軽い剣というのは納得できなくはないのだが、冒険者として本格的に戦うならば、そんな細身の斬るための曲剣では、直ぐに折れて使い物にならないというのが、この世界の常識だった事もあり、教官も多数意見に同意していた。
ジューネスティーンの剣は、この世界の住人からしたら、実用性に欠ける剣と見られてしまったのだ。
その剣は、今のジューネスティーンの体格に合わせた剣であって、屈強な冒険者には合わない剣と見られているのだ。
一般的な斬る剣というのは、棍棒の延長線上にあり、叩く部分が鋭利になっている程度なので、斬るというより、ぶっ叩いた時に体に入り込み易いとか、骨を砕くのにも良い程度のものという感覚だが、ジューネスティーンの剣は、その斬れ味を利用し分断するための剣であるので、他の斬る剣とは次元が違っていた。
そして、ジューネスティーンには、もう一つの課題が有った。
卒業までにジューネスティーンが考えている防具を完成させてギルドに提出するというものだった。
それは、パワードスーツと言い、今までのフルメタルアーマーのように体に装着するのではなく、服を着るように組み上がっている装備の中に入るというものだった。
フルメタルアーマーは、各パーツを自身の肉体に固定するように取り付けるので、パーツを順番に取り付けていくことから、場合によっては、数人で取り付ける必要があるのだが、ジューネスティーンは、完全な防具の状態で組み立てられたパワードスーツの中に入る。
要するに、そのまま装備とするという代物なのだ。
それならば、装備するための時間が短縮できるだろうとは思うのだが、それだけだろうと初めは思われていた。
フルメタルアーマーは、防具として優秀ではあるが、重量があって、動きも制限されるので、それが自立できてとなれば、重量は今のフルメタルアーマー以上となり、装着時の動きがまともにできるのかと大半の教官の考えだった。
しかし、ギルド本部は、必要な材料の提供を行うので、ギルドの高等学校には教室を一つ提供するように指示してきたのだ。
その中には、シュレイノリアの魔法紋の開発も含まれていた。
重装備の戦士は、その重みをカバーする為の強化魔法を掛けても、その反動が自身の体に跳ね返ってくるので強力すぎる強化魔法は掛けられない。
しかし、パワードスーツは、外装骨格に人工筋肉を使って強化魔法による人体への反動を抑えることが可能となるので、その有用性をギルド本部は考えたのだ。
しかし、そんな新たな技術開発など学校の教師達では理解できなかった。
そんな事までして入学させる必要があるのかと、大半の教官達は思っていたのだが、ギルド本部は指示を出すだけで学校側の言い分を聞くつもりは無かった。
学校としても、納得は出来なくてもギルド本部の指示は絶対なので、教室の提供を認めるしかなかった。
ジューネスティーンは、授業以外の時間を使って、パワードスーツを作ることになったが、それは、卒業までに仕上げると言う条件をつけられていた。
そして、入学前には、ジューネスティーンが実際に使っていたという、フルメタルアーマーを改造したパワードスーツの原型というものを、職員達は確認しているのだが、それは、膝と肘の外側に腕と足に平行に金属の棒と肘と膝の横には蝶番が付いており、肘と膝に連動して曲げることができた。
それによって、力が加わった時に肘と膝を保護するということは理解できた。
ただ、肘と膝以外の関節部分については、動きが複雑だという事もあり、その部分については、ジューネスティーンから設計内容の説明を受けるだけだった。
一部の職員の中から、歓声が有ったのだが、この格闘技の教官には、その説明を受けても、そんなものなのかと思っただけで、ましてや、力自慢の教官には、そのジューネスティーンが考えたパワードスーツが、一般的なフルメタルアーマーとの違いが有るとは思えなかった。
その程度のものを作るにあたり、教室を一つと材料一式を提供して作らせるだけで、特待生として入学させたということが納得できずにいた。
それは、格闘技の教官だけでなく、一緒に居る生徒の大半も同じだった。
教官と生徒たちの共通の思いから、ジューネスティーンは、生贄として差し出された。
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