第3話 模範試合
特待生としてのジューネスティーンを面白く思っていなかった格闘技の教官なのだが、それは、生徒達も同様だった。
面白くも無い格闘技で、わざわざ自分が疲れる思いをして、この屈強そうな教官なら、自分が勝つ見込みは低いと、生徒達は判断したので、模範試合の相手としてジューネスティーンを指名する声が上がると、ほぼ全員が話に乗ってきた。
その事で、この場にいる全ての生徒から、ジューネスティーンは、面白く思われてない事が伝わった。
そして、この格闘技の教官としても、これからの主導権を握るにあたり、特待生のジューネスティーンが相手をするのは都合が良かった。
事前に聞いていたジューネスティーンの情報は、この教官には理解できず、なんで特待生なのか疑問だったことと、それは、生徒達も自分と同じように思っている事が分かった事で、初めて出会う生徒達ということで緊張気味だったのだが、それも、今の生徒達の反応を見ていたら、自分と同じように思う者が多いと分かり、ホッとして緊張が緩んだようだ。
生徒達の中から出てきて教官と対面するジューネスティーンは、少年の面影が抜けてはおらず体の線も細い。
そのジューネスティーンの体型を教官は確認するように見た。
「ふーん、そうか。俺は、教える側だ。そして、お前は、教わる側で、さっきの反応なら武器無しでの戦いは、知らないだろうし考えた事も無いようだな」
教官は、ジューネスティーン以外に、全生徒に聞こえるように言った。
生徒達全員には、この格闘技の授業は余計な授業であって、ただ単に疲れるだけのように思えている。
それは、魔物と素手で対峙するような事は無いだろうと、生徒の誰もが思っている事なので、そんな面倒な授業は軽く流したいと思っているのだ。
そんな生徒達を確認すると、教官は、ジューネスティーンを見て、一瞬、ニヤリと笑った。
「おい、お前! 俺は、これから10分間、お前に攻撃はしない! その間に俺を倒してみろ! だが、10分を経過したら、俺も攻撃する。攻撃を受けたく無かったら、この10分間で俺を倒せ!」
教官は、ジューネスティーンに言うと、教室の中にある魔道具の時計を確認した。
「じゃあ、始める。これから10分、お前は好きなように、俺に攻撃して、俺を倒せ!」
その言葉を合図のようにジューネスティーンは、踏み込んで教官との間合いを詰めると、右の拳を教官の顔目掛けて殴り掛かった。
「ふん!」
教官は、瞬きもせずジューネスティーンの動きを見切り連動するように、ギリギリのタイミングで、体を左に逸らして、その攻撃を簡単に躱してしまった。
そして、当たると思ったジューネスティーンは、空振りした拳のお陰で、体を回転して尻餅をついた。
それを見ていた生徒達からは笑い声が出た。
その倒れたジューネスティーンを油断なく教官は見ていた。
「ほら、どうした、ちゃんと見て攻撃しないと当たらないぞ!」
教官は余裕そうにジュネスティーンに言うとジューネスティーンは、悔しそうな表情をしながら立ち上がって、左右の拳を交互に放つのだが、全て躱されてしまった。
すると、今度は、体を預けるようにして教官にぶつかると、両腕を胴体に回して体を左の方に振るようしたのだが、教官の体は全く動く気配が無い。
そして、体を持ち上げようとしても全く持ち上がる気配が無い。
教官は、体の重心位置をズラすだけで、ジューネスティーンの攻撃を躱していたのだ。
「どうした、今度は、組み手か」
教官は、そんな事も織り込み済みと言わんばかりに声を掛けてきたが、その間もジューネスティーンは、教官を倒そうと左右に力を加えているのだが、全く動く気配が無い。
教官は、格闘技の専門家であって、ジューネスティーンも生徒達も格闘技に対して素人である。
格闘技の専門家である教官の、力の加え方を理解できていない事から、組んだとしても重心の移動だけで、持ち上げることも叶わず、足を一歩動かせることもできない。
ジューネスティーンは、最初は、打撃系で対応したが、簡単に躱されてしまい、組んで倒そうとしたのだが、一歩も動かせそうもない。
最初は、面白がって笑っていた生徒たちも、教官の圧倒的な力を見てしまうと、笑い声も出なくなってしまっていた。
応援をするような生徒は居なかったが、その圧倒的な力差を見て唖然としてしまっていた。
生徒達は、真剣な表情になり、信じられないという表情をしていた。
そして、ジューネスティーンは、どんなに力を入れても、なんともなるような状況ではなく、そして、息も荒くなってしまい肩で息をするようになっていた。
「おい、時間だ。それじゃあ、俺からも行くぞ!」
教官は、そう言うとジューネスティーンの左手首を右手で握ると、右脇に自分の左手を前から入れて背中を抑えるように持つと、教官は自分の腰を回しながら右手を回して、左手首を前に出すようにながら体を自分の腰に乗せるようにした。
ジューネスティーンは、その動きにつられてしまい、つま先立ちになると、そのまま振り回されて床に叩きつけられた。
ただ、教官は、床に叩きつける瞬間に軽く引き上げるようにしていたので、素人のジューネスティーンでも、受け身っぽく叩きつけられていた。
「なんだ、あっさりだな。これじゃあ、授業にならんだろ」
そう言うと倒したジューネスティーンは立ち上がって教官に向かっていくのだが、今度は、ジューネスティーンの右の二の腕を左手で掴むと、体を入れてきて、教官は、右腕をジューネスティーンの右脇に入れて、肘と二の腕で挟むようにしながら、ジューネスティーンを背負うようにした。
そして、そのまま体を前に倒したので、ジューネスティーンは、教官に背負われてから、そのまま床に叩きつけられた。
「おいおい、こんなに簡単に技にかかってしまったら、授業の意味が無いだろう」
そう言うと、また、ジューネスティーンは、起き上がって教官に向かっていくのだが、毎回同じように床に叩きつけられていた。
そして、徐々に起き上がれなくなり、ついには起き上がらなくなると、床に叩きつけられたジューネスティーンを引き起こして、また、別の技で床に叩きつけていた。
それは、ジューネスティーンの攻撃時間と同じだけ続いた。
流石に教官も立て続けに技をかけていたので、息が荒かったが、ジューネスティーンは、全く動けるような状態では無かった。
投げられっぱなしだったジューネスティーンだったのだが、体力的にも限界を超えてしまっていた。
投げられる時には、意識してだったり無意識だったり、掛けられる技から避けようと力が入る。
ただ、投げられているだけでも体力は十分に浪費されるのだ。
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